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アスタロトの言葉を終りまで待たずに、レイブはゼムガレのナイフを正面に構えて『反射』の結界から飛び出し、すぐ後をペトラも追い掛けて行ってしまった。
双方とも一片の迷いも無い行動である。
『お、おいおい! まだ話の途中だって言うのに…… はあぁ~まあ良いか……』
溜息と共に発せられたアスタロトの言葉に子分のテューポーンが問う。
『宜しいのですか、我が君? 外は魔力の渦ですが…… なんなら私が行ってお連れして参りましょうか?』
アスタロトは首を振りながら向き直り、残ったギレスラの頭を撫でつつ軽い声音だ。
『良いさ、三分の一とは言え我の真核入り、依り代だからな、グルグルを忘れさえしなければ影響ないだろうさっ! それに…… 自分達で顛末を見た方がより理解出来るんじゃぁないか? 竜種って存在についてな』
『……御意』
ギレスラはこのやり取りを聞きながら、レイブとペトラ、アスタロトとテューポーンの双方に視線を移し続けながら落ち着かない様子だ。
アスタロトは自分の倍ほどもある紅竜の顔を覗きこみながら声を掛ける。
『心配要らんぞギレスラ、ここで待っていれば良い! 無論、二人の力になってやっても良いがな』
『か、神様、アスタさん! い、行っても良いの?』
『当然だ! 但し、グルグルを忘れちゃ駄目だぞ?』
『グガァー! グルグルグルゥーッ!』
ブワサッ!
竜種への駄目出しの途中だったからか、その場に留まっていたギレスラであったが、必要かどうか判らないアスタロトの許可を得た瞬間、翼を羽ばたかせて結界の外へと飛翔したのである。
『こちらも恐怖の欠片も見せませんな、いやはや勇敢な事で……』
『当たり前だろう! レイブだけでなくペトラもギレスラも同じく我の依り代、後継者なのだぞ? むふふふ』
『ご慧眼、恐れ入ります』
『で、あろう? むふふふ♪』
結界から出たレイブは、巨大な岩の塊、いいや肥大した鱗に包まれたズメイ種の竜を前に、ゼムガレのナイフを構えたまま、行動に移す機会を待って身じろぐ事もなく集中を高め続けているしかなかった。
なぜなら、鱗を剥ぐ為に飛び掛ろうにも、魔力過多で苦しんでいるズメイ種が全身をバタバタと忙しなく動かし続けてしまっていたからなのだ。
本来ならば胴体部分に抱きついて魔力を吸収する役目の獣奴ペトラが、動きを止めようと試みて首元に突進しては長い首に払われ、背中に乗っては振るい落とされ、今は尻尾を咥えて引っ張っている最中だが、残念な事に一切の動きを止められていないからであった。
赤い魔石の粉末、タンバーキラー入りの糊をべっとりと付けたナイフでは竜や獣奴、ニンゲンに致命傷を与えることは無い。
それが判った上でも、適当な覚悟で飛び込むことが出来ないのは、元になっているナイフが正体不明の神聖銀で拵えられたチッターン製のゼムガレのナイフ、過去に獣奴ヴノを絶命させ掛けた代物であったからに他ならないだろう。