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「白李は優しいよね」
カフェの向かいの席に座るめぐちゃんが、なんてことないように言った。あまりにもいつも通りだったものだから、僕の反応は一拍遅れてしまった。
「そう?」
しゃなりと首を傾げてはぐらかそうとしてもおそらく無駄だろう。こちらを見ないでストローをくるくると回している彼女は、きっともう気付いている。
「でも、そこに私への愛はない」
ほら。やっぱり。
「優しいのに?」
駄目元でそう言ってみると、やっとこさ彼女は顔を上げた。その顔には怒りも悲しみもなく、ただただ日常の延長線上の顔をしていた。それは、僕が女の子と付き合う度に見てきた表情。
「愛がなくても、優しくはできるじゃん。優しさは愛じゃなくって情だもん」
あらら、御名答。
バレてしまったならば、もう格好良い彼氏でいる必要はない。背もたれに思いっきり体を預けて、張り詰めていた肺から大きく息を吐き出した。
「女の子って皆、勘が鋭いもんだね」
雰囲気を崩して笑いながらそう言うと、向かいの彼女はふんと一つ鼻を鳴らした。
「見くびらないでよね」
「見くびってるつもりはないんだけどねぇ」
視線を落としてくるくると手元のストローを回すと、真っ黒いコーヒーと真っ白なミルクが混ざり合って段々と色が淡くなっていく。
「あ、そうだ。ビンタでもしておく?」
「いらない。白李のこと、別に嫌いってワケでもないし。ただ、私のこと好きにならない人と長く付き合ってても楽しくないから嫌ってだけ。ビンタの代わりにココ奢ってよ」
「わかった」
あいも変わらず、なんともまぁ強かな子だ。
苦笑しつつラテを一口だけ口に含む。入れたのはミルクだけだからまだまだ苦い。
「ずっと気になってたけど、苦くないの?」
「うん。甘いの苦手だから」
「知らなかった。教えてくれてもいいのに」
「だって、君の気持ちに”付き合ってた”だけだもん。わざわざ教えないよ」
「…確かに。そう考えると白李にちょっと悪いことしたかも。じゃ、割り勘でいいよ」
「いや、 迷惑料としてちゃんと僕が払うよ」
二人してラテを飲んでいると、突然僕の鞄が小刻みに振動した。
「ごめん。ラインが来たみたい」
「ん、全然平気」
ぱっとスマホを開くと、見慣れた三白眼の黒猫が描かれたアイコンが目に飛び込んで来た。メッセージを見て思わず笑みが零れ落ちる。
「ふ、ふふ…」
「白李?」
不思議そうにこちらを見つめるめぐちゃんに視線を戻して、しみじみと答える。
「いや、やっぱり女の子は勘が鋭いなぁって」
「え、まさか浮気してた?なら、普通に奢りでよろしく」
「いやいやまさか!浮気なんてしないよ。この連絡相手は友達。けど…」
そこまで言ってから再度スマホに視線を移した。
「あいつってば、本当になぁんにも気付かないからさ」
『白李!もし暇なら独り身同士、一緒にダンジョン潜りに行こーぜ』
独り身って。僕、全然彼女居るのに。まぁ、たった今別れて独り身になったけど。
手早く荷物をまとめて、お金をテーブルに置いてから席を立つ。
「ごめん。呼ばれてるから帰るね」
「ん。白李って、本当に友達好きだよね」
彼女の嫌味でもなく、ただ事実としてものを言う所が好きだ。勿論、友達として。
「うん。好きだよ」
「お、白李。予定とか大丈夫だった?」
「うん、平気平気」
彼の隣に座り込んでゲーム機を取り出す。きっと彼は僕がたった今彼女と別れて、大急ぎで家に寄ってここまで来たなんて考えてもないんだろうな。それでいいんだけど、ちょっぴり心配。
愛がなくても一緒にいられるし、愛があっても隣には居られる。
どちらも上手く行くコツは隠すこと。
まぁ、女の子にはいつもバレてしまうんだけど。
「白李ってモテそうでモテないよな」
「えー、心外だなぁ」
彼にバレてないのならば大丈夫。
隠し事は今日も順調だ。