重い短剣を少し振る。あまり手に馴染まないのに、捨てない理由がいつまでも作れない。それは、気に入っているから、なんてものじゃなく、人を殺すのに適していたからだった。
守護者を傷つけられる短剣。感情の木。金のリンゴ。
この数単語で、俺がなにを成し遂げたいかは筒抜けであろう。
皮膚を撫でるそよ風に生を実感させられた。俺は生きていた。巡る血が、脈が、回路が、それが俺を生かしていた。
これから俺は死ぬ。馬鹿じゃないんだ、あの守護者に挑んで、生きて帰れるなどという自惚れを感じられるほど余裕でいられるほどに、馬鹿じゃないんだ。自ら火に飛び入ってでも、焼ける喉から、胃液で溶ける喉から手が出るほどにほしい。あの果実が、ほしい。
。
黒い髪がしなやかに風の影響をうけた。横たわった物の目は、今にもどろりと溶け出して、頬へ流れそうなほどに、形容しがたい睨みをきかせる。代わりに頬へ伝ったのは、頭部の負傷による鮮血。
男は死んでいた。憎悪を隠さず見下ろしてくる守護者が人生最後の光景だ。
しばらくして、感情の木の負の感情側によって男の肉体が吸収されていく。感情の守護者が留守の間、木の影にひとつ、形が定まらないような、不確定な形をしたなにかができた。
それはあの男だった。うらみつらみ、復讐心が人の心の許容範囲から溢れすぎた男は、もはや人間ではなく、別のなにかに成り果てている。
俺が殺されるなんて許せない。膨れ上がった負の感情は尋常ではない量を放っていた。
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