リビングのお気に入りのカウチソファがギシギシと軋み、それを掻き消すように二人分の熱の籠もった荒い呼気が高い天井に向けて立ち上っては弾けていく。
長い両足を大きく開いて腰を突き出すようにソファに座り、自由に手を動かせないもどかしさに身を捩るリオンを細めた目で見下ろしたウーヴェは、青い眼に浮かぶ欲情に身体を震わせた後、濡れた舌で唇を舐めたて同じように濡れた唇の両端を綺麗な角度で持ち上げる。
「オーヴェ、これ、外せよ」
「人にものを頼む時には何というんだ?」
幼い頃に魔法の言葉を教えてもらっただろうと、リオンの腰を跨ぎながら後ろ手ですっかりと勃ち上がったものを握って軽く手を上下させれば、その動きに合わせてくすんだ金髪が揺れ、汗が滲む顎が跳ね上がる。
「頼む」
さっきから手でやってくれるのは嬉しいが、出来るなら今すぐお前に突っ込みたい、お前の熱で包んでくれと切羽詰まった声で懇願され、ぞくりと背中が震えてしまうのを何とか押し隠してにべもなく断るが、顔を上げたリオンが思わず口をぽかんと開けて見惚れる笑みを浮かべたウーヴェは、鼓動に合わせて手の中で脈打つそれの先を指の腹で撫でた後、先の部分だけを希望通りに迎え入れてやる。
「────っ!!」
「望みを叶えてやったぞ?」
「くそったれ! これじゃあ生殺しだ!!」
ウーヴェの勝ち誇ったような言葉にリオンがシャイセと叫んで目を吊り上げると、先だけとは言え入っていた中から抜かれてしまって目を白黒させる。
「だから、悪かったって!!」
こんな事になったのも総て自分が悪い。認めるし幾らでも謝罪するから、だからお願い、手首を戒めるバスローブの紐と自身の根元を縛る紐を解いてくれ。
悲鳴交じりの声に目を眇めたウーヴェは、まだ納得していないが確かに気の毒だと苦笑し、先程から手淫しているものの根元に指を這わせて紐をするりと解けば、肺の中を空にするような溜息が響き渡り、張り詰めていたものが僅かに大きさを増したように感じられる。
「今回の事は反省したか?」
「した! 黙ってた俺のバカって反省したからさぁ…」
だから手首の紐も解いてくれと両手を突き出す恋人を無表情に見下ろし、さぁどうしようかなと呟いてもう一度受け入れる為に少しだけ腰を落とせば、何とも言えないくぐもった声が流れ出す。
今回の一連の騒動で愛車を届けてくれた親友に二人で出勤してきた事情を説明しろと迫られ、昨夜から今朝に掛けての出来事と、そもそもの発端を語らせられた後、朝一番に嫌味を言われ呆れられ、挙げ句に雨降って地固まるのも結構だがまた傍迷惑なことをすれば次はお前達に店で使う玉ねぎの下処理をさせるぞと言われてしまい、全く持ってその通りだった為に何も言い返せなかったのだ。
今朝の光景を思い出して眉を僅かに寄せたウーヴェは、不意に突き上げられて息を呑んで動くなと言うようにリオンを睨めば、男と言うよりは獰猛な獣そのものの顔になった恋人に睨み返されて目を細める。
「ダメだと言っただろう…?」
「オーヴェ…先だけじゃなくて、奥が良いんだって」
今回の事は全面的に自分が悪かった、だから気の済むようにしろと言ったのはお前だろうとターコイズを眇めて見下ろすが、もう限界だと吼えるリオンに反論する寸前、舌なめずりしながら囁かれた言葉の通りに奥を突き上げられて掻き回されて腰が跳ねる。
「ま…だ、だ…っ!」
「オーヴェもしつこいな」
何とか必死に堪えて腰を持ち上げてリオンのものを半ばまで抜き去ったウーヴェは、リオンの肩に額を預けるように身を寄せて唇を噛みしめる。
いつもはリオンに好き勝手に煽られ突き上げられて突き落とされているが、さすがに今回の仕返しをしなければ気が済まなかった為、気が済むまでリオンを弄んでいるのだ。
だがそれも早々と限界が来たようで、もう耐えられないと吼える恋人に小首を傾げ、無理かと問いながらリオンのものを締め付けるように力を入れたり抜いたりすると、恨めしげな地の底を這うような声が聞こえて来る。
「オーヴェ、…俺が悪かったから…っ」
「ダメだと言っただろう?」
いつもならば与えられている快感を今は自らコントロールしながら目を細め、切羽詰まった声どころか殺意すら籠もりそうな声に満足げに笑いながらリオンの肩に手を載せようとするが、あっという間に逆に両肩を押さえつけられてカウチ部分に押し倒される。
「────ッア!」
半ばだけ入っていたものがその衝撃で抜け出してしまい、その動きにつられて声を跳ね上げたウーヴェは、覆い被さるように見下ろしてくる金のたてがみの獣の一対のような双眸に見据えられて固唾を飲んで見つめ返す。
「ワガママはもう終わりだ」
「ワガママはお前だろう!?」
そもそも最初に気の済むようにしろと言ったのはお前だと、いつの間にか戒めから脱出した手で押さえつけられて痛みを訴える肩に顔を顰めると、獣が己の胸の上で獰猛な笑みを浮かべる。
「覚えてないね」
「…っ!!」
この、と文句を言おうとした刹那、今まで自らがコントロールをしていた場所に熱くて太いものが宛がわれたかと思うと、ウーヴェが目を瞠る間もなく襞を押し分けて一息に熱と質量を持つものが突き進んでくる。
「っく…────ッアァ!」
「────ハ…ッ」
総てが入った事を示す溜息が胸の上に弾け、それに首を左右に振ったウーヴェだったが、足を高々と担がれ押さえつけられてしまい、咄嗟に伸ばした手でソファの背もたれに爪を立てようとするが、更に突き上げられて手が宙を掻く。
ソファが壊れてしまいそうな程軋み、それに負けない様な荒い息遣いが部屋に響き、動きに合わせて揺れているものの先からとろりとした粘液が流れ出し、それに気付いたリオンの大きな掌に色素の薄い毛に半ば隠れているものも一纏めにして握られてしまって短く息を呑む。
「…!…ァア…っ! リオ…ン、っ!!」
痛みすら感じる快感に白い髪を左右に振り乱し、手を離せと震える両手でリオンの手首を掴むが、奥を突き上げられて頭を仰け反らせてしまう。
「ぅん…っ! リー…オ…っ! リー…ッ!」
「…そんな声出したってダメだって…!」
いつもならばその声を聞くだけで快楽の海から解き放ってくれるのだが、さすがに今夜は散々焦らされたのがガマン出来なかったのかどうなのか、いつも以上に執拗なほど突き上げられて身体を震わせてしまう。
「今日は…ダメだからな?」
「────ッ! リーオ…っ!」
「ほら、どこがイイ? スキなとこ言えよ」
望み通りにしてやるからと、ぱさぱさと左右に振る髪に顔を寄せて囁やかれ、どこがイイと腰を押しつけられてしまえば、抱えられていた足を無意識に腰に絡めてしまう。
言葉では伝えられなかったが、角度を変えて突き上げられると足が跳ね腰が揺れる箇所があり、そこを執拗なほど突き上げられて襞を擦るようにゆっくりと出し入れされてしまえば、宙を掻いていた手をリオンの肩に乗せて力を込めてしまう。
「オーヴェ、痛いから力抜けよ…」
そんな事を言われても無理だと頭を左右に振ることで伝え、ターコイズを覆っていた瞼を半ば持ち上げると、中に入っていた熱が不意に脈を打って大きくなる。
「リーオ…っ!!」
もうこれ以上は無理だと、狂ってしまうと思わず懇願しそうになった時、確かに俺ももう限界だと返されて安堵の溜息を吐く。
「あとちょっとガマンしろよ、オーヴェ」
「…っ!!」
その言葉に返事を返す間もなく身体を引き寄せられ、グッと胸に着くほどに足を折り曲げて押さえつけられ、露わになった尻にさっきとは比べものにならない激しさで腰を打ち付けられてリオンの肩に爪を立てる。
動きに合わせた様に甘い声が流れ出し、いつの間にかリオンの手の中に握られていたものから止めどなく粘液が流れ出し、自身の限界が見えたその時、リオンの逞しい身体の下で快感に震えていたウーヴェが辛うじて持ち上げた両手を身体に宛がい、しっかりと力を込めたのだ。
「オーヴェ…?」
あと少しで快楽の極みに辿り着けるその時のその行為にリオンが目を丸くするが、嬌声を零すばかりの唇に笑みを浮かべ、あろう事かリオンの身体の下から抜け出すようにカウチソファの上でずり上がったのだ。
「え、ちょ…!」
あと少しという所でどこに行くと慌てた様に声を挙げるリオンを鼻で笑い、今日はダメだと言っただろうと目を細めたウーヴェは、あまりの事に驚くリオンの肩を逆にどんと突き飛ばしてソファに押し倒すと、しっかりとその腰に跨って呆然と目を瞠る恋人を見下ろして笑みを深くする。
「今日はダメだと言っただろう…?」
「言ったけどさ、俺も反省したって言った…!」
「言葉だけではな」
信じられないと顎を上げて見下ろし、再度後ろ手で屹立したものを握ると、ゆっくりと己の中に迎え入れるが、総てを納めた事に気付くと、さっきされたように今度はリオンのものを二つ一纏めに手の中に軽く握る。
あまりの事に頭を仰け反らせるリオンを見下ろし、自らの手で快感をコントロールしながら腰を浮かせては沈ませると、唸り声のような声が聞こえてくる。
「絶対サドだ、オーヴェのサド!!」
「お前にだけは言われたくないっ」
いつもいつも、こちらが泣きながら止めてくれと言うまで止めないお前には言われたくないと、快感に顔を歪めながらもきっぱりと言いきったウーヴェは、あと少しで得られる絶頂目掛けて腰を使い、身体が跳ねる箇所を先端で突き擦りながらも、後ろ手で握っているものはそのままだった為、リオンが何とも言えない表情で見つめてくる。
それを見れただけで秘かに満足はしていたが、今回の事を反省させる為に握ったものはそのままに、自ら激しく上下させる。
「オーヴェぇ…ホント、ごめんって…!!」
先っちょだけを入れられた時の生殺しなど優しいものだとやっと気付き、己がしでかした事を心底悔いている顔で見上げてくるリオンに快感と満足の二つの思いから目を細め、あと少しだと唇を舐める。
「そんな顔出来るんだったら普段も見せてくれても良いじゃねぇかよ、オーヴェのケチっ!」
「ふぅん? そんな事を言うのか?」
「げっ!」
今自分がどんな立場に置かれているのかを思い出せと、にやりと笑みを深めて手の中に握っていた袋を擦り合わせるように指を動かすと、ウーヴェの尻に文字通り敷かれている身体が跳ね上がる。
「ごめっ…!」
タマが潰れると悲鳴じみた声を発したリオンをふふんと鼻先で笑い、あと少しで手が届くのだから大人しくしていろとも告げた後、その言葉通りに大人しくなった恋人にキスを贈り、最も敏感な所を自ら腰を使って突き擦りながらリオンの手を掴んでそっと前を握らせる。
「前もしろって…?」
「…ああ…っ」
今日は主導権を手渡すつもりはない事をしっかりと理解させたウーヴェは、溜息を吐いた後腹を括ったのかリオンの手が上下した為に頭を仰け反らせ、そして訪れた頂点に辿り着くと、リオンの身体に沈むように身を寄せる。
上がった息を何とか整えると、前を握っているリオンの手首を掴んで引き離させると同時に最奥に迎えていたものを抜き取り、全身でリオンの身体に覆い被さる。
「────ハ…ッ」
「気持ちよかったか、オーヴェ?」
「ああ」
リオンに諦めの境地に達した声で呼びかけられて小さく頷き、自分は確かに気持ちよかったがこのままではさすがにリオンが気の毒に思えてしまい、青い眼を覗き込んで瞬きをする。
「リーオ」
「何だ?」
「……手でいいな?」
「どうせなら口が良いな」
質問の意図を察してにやりと笑みを浮かべたリオンに目を細めて調子に乗るなと告げるが、今回の事は本当に反省したかともう一度問い掛けて大きな溜息交じりのヤーという声を聞く。
「もうしません。オーヴェがこんなにイジワルでサドだったなんて知らなかった」
あと少しでお互いイケるという時に引っこ抜いちゃうんだもんなぁと告げられて目を細め、人を甘く見るからだと笑い飛ばしたウーヴェは、ならば良いと頷いてほったらかしにされているものに手を伸ばした後、リオンの目を覗き込みながら手を激しく上下させる。
「…ン…っ!」
まさか今度も寸止めにするつもりじゃないだろうなと、頭を持ち上げたリオンの問いにさぁと返したウーヴェだったが、さすがにそこまで追い詰めるつもりはなかったが、表面上は表情を変えずに手を動かし続ける。
「────ん…っ」
リオンの口から何かを堪えるような声が流れ出した直後、腹の上に熱が飛び散り、びくんと身体を竦めたリオンにキスをし、もう一度青い眼を覗き込んで笑みを浮かべる。
「リオン…今回のようなことはもう止めてくれ」
「ホント、ごめん。もうしない」
リオンの手が首筋の後ろで交差したことに気付き、もう一度身を寄せて目を閉じるとしっかりと抱きしめられてつい無意識に安堵の溜息を零してしまう。
「なら…許す」
「ダンケ、オーヴェ」
お前を信じているとの思いを込めて囁けば、同じ思いが籠もっている声が返ってきて、ベルトランの言葉ではないが、雨降って地固まった二人はどちらからともなく笑い合い、ソファから起き上がってしっかりと互いの背中を抱き合うのだった。
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