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キッドの部屋のベッドにぼふっと降ろされる。おいなんだこれ。なんでこんな状況になってんだよ。おかしいだろうが。
「き、キッド…」
「なんだ」
「お、おれは……」
言い淀んでいると、目の前に影ができる。
「や…」
「キスしたい」
「い……や……」
弱々しく俺は首を横に振る。するとキッドは少しだけ後ろに下がった。
「……無理矢理とかしないんだな」
「最初にそうしたら泣いただろ。あれで反省した」
意外~……。でもそれだけガチだと思うとどうしていいかわからなくなってくる。どうしようかと悩んでいれば、キッドがずいっと距離を詰めてくる。反射的に後ずさるが、すぐに壁に当たって逃げ場を失った。
顎に手をかけられて、ぐいっと持ち上げられる。キッドの真剣な眼差しに射抜かれて、息をするのを忘れてしまいそうだ。
「好きだ」
「…俺、は……男は、好きにならない……と思う」
絞り出した声は震えていた。しょうがないだろ。こんなに迫られたのは初めてなんだ。動揺くらいする。
「俺だって今まで男なんか興味なかった。でもお前だけは違うんだ。初めて会った時からずっと惹かれてる」
キッドの言葉に、顔が熱くなる。きっと今の俺は耳まで真っ赤になっていることだろう。
恥ずかしくて目を逸らすが、キッドは許してくれなかった。もう一度顔を掴まれて、無理やり視線を合わせられる。ああくそ、また涙が出てきそうだ。
「……俺、おれ、えっと、その……っ、お、おまえのこと、よく知らないし……」
「これから知ればいい」
「………………いや、でも……」
「俺はお前が欲しい。お前以外はいらない」
情熱的な告白に、心臓がバクバクとうなりを上げる。南の海の男が情熱的って本当だったんだ。仕事したくないクザンさんの冗談だと思ってた。
俺はぎゅっと拳に力を込める。
「……わかった。お前の船には乗る。ただ1年間だけだ。それと、ここまで一緒に来た海軍の人たちに一言言わせてくれ。何もなくいなくなったらあの人たちはきっと俺のことを探すと思うんだ」
俺がそう言えば、キッドは明らかに嫌そうな顔をする。多分俺のこと一生船に乗せる気だっただろうしな、加えて海軍への別れの挨拶も彼は良しとしていない。
でも俺だってなんでもはいはいと受け入れる全肯定マンじゃないんだ。
「なら俺が書いたメモを海軍の船にでも投げ入れてくれ」
電伝虫での連絡も考えたのだが、盗聴できるし、逆探知とかもできるかもしれないから海賊である彼はそれを良しとしないだろう。
俺は紙にいきなり海軍の基地を離れること、俺の部屋だった場所は片付けてくれて構わないことなんかを書き、最後に自分のサインを入れた。
「これでいいか?」
「……あぁ。あとは俺のクルーに任せる」
キッドは部屋から出てすぐに戻ってくる。メモをクルーに渡したのだろう。仮にも海軍の船にメモ置いてくるのにいいのかそれで。どんだけ自分のクルー信じてるんだよ。
「ジェイデン、触れたい」
「……変なとこ触るなよ」
キッドの手が頬に触れる。その手は優しく撫でるように動く。触れられたところからじんわりと温かさが伝わってきて心地よさを感じてしまう。
俺は1年間、己の貞操を守れるだろうか。そんな不安を抱きながら、俺はキッドに撫でられ続けた。