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「報告と違うではないか、どういうことだ!」


憤慨するガヌロンにモーリスが頭を下げる。

もはや隠し通すことはできない、言うべき時がきたのだと。モーリスは覚悟した。


「トロンにある六つの門、すべてに商人たちの長蛇の列ができております。今トロンに攻め込めば、各国の商人たちを巻き込むことになるかと」


「そのような木っ端商人、いくら死のうが構うものか!」


叫ぶガヌロンにモーリスが反駁する。


「そういうわけにはまいりません。各地から、豪商や貴族がトロンに流入しております。巻き込めば国際問題になりますよ」


ガヌロンは「なぜそんなことになっている! 話が違うぞ!!」と叫びたくなったが、この問題には薄々感づいていた。モーリス以外の諜報員から再三に渡って報告を受けていたからだ。


ただ、都合の悪い現実を前に、ガヌロンはそれらを嘘と断じた。自分にとって都合の良い報告だけをしてくれるモーリスだけを信じたのである。


「私は確かに嘘の報告をしました。しかし、そうしなければガヌロン様は誰もお信じになられなかったではないですか」


「ガヌロン様が誰も信じることができなくなった時、せめて私が隣にいることができるように、その為の苦肉の策でございます」


裏切り者がぬけぬけと……!

ガヌロンは既にモーリスを殺すつもりでいた。


ここでひとつ身内を殺しておけば、他の馬鹿どもも震え上がって少しは命令を聞くようになるだろう。


しかし、情報は得ておかなければ先がなくなる。苦々しいが、それでも話を聞いておく必要があった。


「状況はどうなっている。真実を話してくれ」


「かしこまりました」


モーリスは自分が殺されることを予感していたが、構わなかった。


このままヴィドール家に殉じるつもりだったからだ。他の使用人たちがもうこの家はダメだと見捨てる中、モーリスは見捨てなかった。泥を啜り嘘を吐き、最後に殺されるのだとしても、老いるまでこの身を養ってくれたヴィドール家に尽くしたかった。


たとえヴィドール家が今代で途絶えるとしても、モーリスの忠誠心には関係がない。


「まず、ご令嬢はまだご存命です。トロンの経済的好調はご令嬢の策によるものだと噂が流れております」


馬鹿な、あの愚かな娘に経済がわかるものか!

そう怒鳴りそうになって、飲み込む。


「い、一体。どうやったのかね? そ、そう容易いことではないはずだが」


ガヌロンが空でろくろを回しながら尋ねる。

そんなことができるなら、自分の領地でやりたい。ただでさえカツカツな上に借金まであるのだ。


その上、金食い虫の兵士どもは働きもしないのに、今日も存在しているだけで借金を増やしていく。そんなうまい話があるわけがない。


「まず、トロン内の税をなくし……」


モーリスの説明を聞くうちにガヌロンはわなわなする。

はっきり言って、やっていることはメチャクチャに見える。なぜそれでうまくいくのか、ガヌロンには理解不能だった。


内部の税を減らして関税を増やす。

そんなことをすれば商人はやってこなくなるはずだ。セオリーで考えれば自殺行為と言っていい。


だが、結果的にうまくいっているのだ。意味が分からない。


確かに待機させている兵士を税関で働かせ、護衛という仕事を与えれば、戦争がなくても労働と賃金が釣り合うのかもしれないが。そもそも関税を高めたら商人が流入するわけがないのだから、その仕事は発生しないはずである。破綻しているはずだ。


何度か考えてみるが、やっぱり理解できなかった。


アベルとは何度か戦場で戦ったことがあるが、無関係な商人を巻き込むことで戦闘を妨害するやりかたは、アベルらしくない。どちらかというと、ランバルドらしい狡猾な手だ。


まさか、本当にあの女が作戦を立てているのか?


「そんな馬鹿な。あのグズは既に死んでいて。アベルが策を出しているだけだ。今すぐ攻め込めば……」


幻想に逃げ込もうとするガヌロンに即応して、モーリスが懐から織物を一枚広げる。


「こちらをご覧下さい」


広げられた織物には、悪人らしく高らかに笑う令嬢の姿が縫い込まれている。

時の権力者が自分自身の姿を描かせたり、彫像を作らせるのと同じやつだと、ガヌロンは直感した。


「既に令嬢には大量の謁見許可申請やパーティの招待が殺到しています。私もダメ元で申請して暗殺を試みましたが、謁見を断られました」


「巷では令嬢を元にした劇まで開かれている始末です」


そんなことになっていたとは。

いや、報告はあった、あったが、ずっと無視していた。


しかし、普通ありえないと思うではないか!


捨て石として敵国に放り込んだ十歳の娘が、何十年も領地を経営している自分にも理解不能な方法で敵国の経済を活性化させるなど。そもそも、あの何も出来ないグズが、なぜ愛されている? 女が政策に口を出すこと自体、本来ならありえないことだ。これが夢物語ではなくて何なのだ!


もし、令嬢がそこまでの才女だとしたら、誰も捨て石になどしない。

むしろ、自国領を繁栄させるために活用するはずだ!


そうなれば、もはや戦争を引き延ばして領主どもをごまかし続ける必要など無い。令嬢を籠の鳥にし、ひたすら経営をさせ、すべての手柄を自分のものにすればいいわけで。


まったく、これはどういうことだ!!

一体、誰のせいだ!! 責任者を出せ!


そこまで考えて、ガヌロンははたと気づく。




「まさか……全部。俺のせい、か?」


「お気づきになられましたか」




モーリスは淡々と告げる。


「ガヌロン様は、宝石を捨て石にされたのです」

死に戻り令嬢、敵国の王子に溺愛される

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