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凪は次々と押し寄せる快感に頭がどうにかなりそうだった。膨張した竿を口腔内で弄ばれるのはもちろん初めてではない。

しかし、前回の千紘はそこまでしただろうか。早い段階で後口を攻められて、神経はとっくにそっちにもっていかれた。気付いた時にはもうどこが気持ちいいのかわからない状態で、千紘があの時どんなふうにどこを攻めたのか思い出そうにも快感に呑まれる。


凪の客の中には同業者もいた。風俗嬢の客はもちろん向こうもプロ。そのため、凪を射精させようと本気を出す子もいた。

もちろん技術的には申し分ない。しかし、見慣れた体で興奮しない凪は、一生懸命神経を集中し、その技術に協力する形で射精までもっていかなくてはならなかった。

更に性病のリスクもあるから、不特定多数の客とオーラルセックスをする同業者には、触らせないことが多い。


技術はあってもその恩恵を受ける頻度は低い方だ。だから熱を持っている凪の竿よりも若干温度の低い千紘の舌が触れた途端体は自分が思うよりもずっと早く反応した。

恐らく仕事中と違うのは、耳やら首筋やらを攻められることがないということ。主導権を得ている凪は、自分の体がこうして徐々に快感を高めていく状況を作らせない。


それが、千紘の手によって完全に主導権を奪われ、快感に導かれていく。敏感過ぎる程にゆっくりと慣らされた体は、そんな大きな刺激に耐えきれず、水を得た魚のように勢いよく跳ね上がった。


千紘の手が大きく包み込み、上下に揺れながら先端には濡れた感触が這う。時折口腔内全体で包まれて、温かさがダイレクトに伝わる。


「はっ、はっ……あっ、ちょ……まっ」


本番でならイけるはず。そう思ってこの数週間、客に挿入し続けた凪。それなのに、今まとわりつく快感はそれ以上だった。


自分で扱いても射精できない。女性の中に入っても無理だった。きっと後口でしかイけない体にされてしまったんだ。そう思っていたのに、どんどん快感は膨れ上がり、懐かしい感覚がした。

先端からダラダラ蜜がこぼれるのが自分でもわかった。すぐそこまで押し寄せた射精感。


「あっ……っ……あ、イクッ、いっ……」


凪はビクビクと体を震わせて、千紘の口の中で果てた。


何度も体を痙攣させ、ここ数週間味わったことのない快感とともに、大量の欲を吐き出した。今まで凪が求めていた射精に限りなく近かった。

自分でも驚く程の量に、吐き出した白濁液と共に体力全てを持っていかれかのように放心した。どんなに努力しても得られなかったもの。

自分の体は自分が1番よくわかっている。そう思って試行錯誤し、何時間かけてもそこに辿り着けなかった。


射精できたとしても、満足できるほどの量は得られず、感覚もまた残尿感に似た不快感が腹部を支配していた。それが、たった数分だ。体感的には数十秒。

こんなにも簡単に果てることができるなんて。凪は呆気に取られたまま、じっと仰向けで天井を見つめていた。


「イけるじゃん。わりと早かったね」


凪の足の間で声が聞こえる。視線だけ下げた凪。千紘の髪が揺れるのが見えた。


「……不本意だ」


「まあまあ、異常なさそうでよかったじゃん」


スラスラと喋る千紘に凪はふと疑問が湧く。たしかに自分は千紘の口内に液を放ったはず。


「お前……口の中のものどうした」


「ん? 飲んだよ。ごちそうさま」


凪の顔の前までわっと飛び出し、顔を寄せた千紘は、舌をべっと出してにっこり笑った。凪は険しい顔で前髪をかきわけると、そのまま掌で目元を覆った。

AVで女性が飲み込む分には興奮する性癖の持ち主もいるが、相手が男となるとやはり話は違う。


「何してんだよ……」


「前回飲みたいと思ってたのに、飲み損ねたから」


「居酒屋みたいに言うな」


「射精できなかったのは本当みたいだね。とっても濃く」


「言うな!」


感想をずらずら並べられるのはいい気がしない。ただでさえ、千紘に与えられた快感で絶頂を迎えただけでもショックだというのに、これ以上現実を突きつけないで欲しいと凪はぐったりと項垂れた。


「まったく、何が不満なのさ。ムードがない男だねぇ」


千紘は凪を上から見下ろしながら言った。さっきまで、甘い雰囲気に近かったのに。凪が絶頂を迎えたら、途端に現実に戻ったかのようだった。


「……ムードなんかいらないだろ。イケるかどうか試したかっただけだし」


「いやいや、大切よ。ムード作りは。凪がイケないのって客だからでしょ? 女とヤリ過ぎて業務的になって、気分が乗らないからじゃないの?」


「それはわかってんだって。前から挿れたところで半数以上の客は顔隠さないとイケねぇ」


「え、それってただのオナホじゃん」


「ああ、それだ」


「最低だね。No.1セラピストのくせに」


「バカ言え。割り切れるからランカーになれんだよ」


顔を突き合わせたまま会話をする2人。接客業同士、その現状は理解し合える。


「まあ、俺もお客さんの大半は恋愛対象内の男ばっかりだから、割り切って仕事してんのは理解できるけどさ。そしたら余計にお客さんでイケないの当たり前じゃない?」


千紘は、気にすることないのにという顔で凪と目を合わせた。凪は、それでよしとできるのならばこんなにも悩んでいないのだと大きなため息をついた。


「これがプライベートじゃないから困ってんだよ。別にプライベートなら、セックスしなきゃいいだけだから時間かかってでも自己処理しながら考えりゃいいけど……」


「凪がイクことも仕事なの? イカせるだけじゃなくて?」


「女の性欲なめんな。アイツら、マジで化け物だぞ。俺がイクことでしか満たされないヤツもいんだから」


凪が頗る嫌そうな顔をすれば、千紘は面白いものでも見るかのようにおかしそうに笑った。


「すごいな。俺が知らない世界だ。女の方がエグいなんていうけど、男より性欲の強い女も多いってことね」


「そういうこと。結局人間、性別なんか関係ねぇんだよ。本能が勝ったら皆ただの動物」


「なるほど。動物相手じゃ、話も変わる」


納得したように千紘は頷いたが「でも俺が求めるのは、動物同士の交尾じゃないんだよなぁ」と言いながら、凪の唇に啄むようなキスをした。

ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

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