テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柱合会議が終わった午後。
蜜璃と天元がにぎやかに帰っていき、館には静けさが戻っていた。
そんな蝶屋敷の台所に、不死川実弥の姿があった。
(……ったく、誰も茶のひとつも入れねぇのかよ)
ぶつぶつ文句を言いながらも、手は慣れた動きで湯を沸かし、急須に茶葉を入れる。
口は悪いが、丁寧に注ぐあたりが彼らしい。
そこへ、気配もなく冨岡義勇が現れた。
「……不死川、何してる」
「見りゃわかんだろ、茶だよ」
「自分の分だけか」
「はァ? じゃあ飲むかよ」
「飲む」
二人は無言のまま湯呑みを並べ、実弥が茶を注いだ。
縁側に出て、並んで座る。
沈黙。だが、それは居心地の悪いものではなかった。
「……お前の淹れた茶、意外とうまいな」
「うっせぇな。文句言うなら飲むな」
「言ってない。褒めた」
「……は?」
「味が落ち着く。少し渋い」
実弥は照れ隠しに、わざと大きく茶を啜る。
風が吹き、庭の藤の葉がさらりと揺れる。
「……こういうの、悪くねぇな」
「そうだな」
また沈黙。
だけど、どこか安心する沈黙だった。
(……こういうやつがいても、まぁいいか)
そう思っていると、義勇がふと口を開いた。
「次の柱合会議のときも、お前が淹れてくれないか」
「絶対やんねぇ」
「じゃあ……湯を沸かすだけでいい」
「チッ……わかったよ」
湯呑みの湯気がゆらりと揺れる。
不器用な男たちの、不器用なあたたかさが、そこにはあった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!