「お腹が痛い…」
私はベッドの上で、体を丸める。
平坦なお腹を押さえながら──。
ここ最近、じくじくと鈍い痛みを覚えていた。
ちょうど、この新しい家に越してきてからだ。
お母さんに相談すると「環境の変化」に慣れていないからだという。
確かにまだ越してきてから、2ヶ月。
でも、大丈夫。
だって私には──。
*****
「優香、今度のデートどこ行く?」
彼氏の健人はクラスメイトだ。
転校して不安だった私に1番に声をかけてくれた。
カッコよくて正義感が強く、頼りになる理想の彼氏だ。
まだ付き合って日が浅いけど、健人といると腹痛のことも忘れられる。
「遊園地に行きたいな」
「おっ、いいじゃん!」
「私、絶叫系は得意なんだよね!」
2人で何に乗るか盛り上がっていると…。
「ゔっ…!」
突然、吐き気が込み上げてきた。
「優香、大丈夫か?」
「ちょっとごめん!」
口を押さえながら、教室を飛び出す。
トイレに飛び込み、便器に顔を突っ込んで吐いた。
朝ごはんだけじゃなく、胃液まで吐き切るとようやく落ち着く。
「大丈夫?」
そんな優しい声で背中をさすってくれるのは、知らない女子生徒だった。
「あのっ…ありがとう」
「いいのよ。私は桐子、2年生よ」
そう言うと、前髪をきっちり揃えている桐子は薄っすら微笑んだ。
「私は…優香。2年1組よ」
「それより大丈夫?」
「うん、急に吐き気がして」
「お腹は?」
「えっ?」
「ずっとお腹をおさえてたから」
「あぁ…ちょっと痛みがあって」
「ちゃんと検査したほうがいいよ。気をつけてね」
優しい笑みを浮かべて、桐子が励ましてくれた。
お礼を言って手を洗いトイレを出ると、そこに健人が待っていて──。
「大丈夫か!?」
「うん、吐いたらマシになったから」
健人を安心させるために、笑顔でかえす。
けれど、お腹がとても重かった…。
*****
「優香、キスしていい?」
それは、観覧車がてっぺんに達した時だった。
絶叫マシーンを乗り終えてからも、ずっと手を繋いでいて。
くるんじゃないか?という予感はあったんだ。
「…うん」と目を閉じると、健人の唇が優しく触れる。
「優香、好きだよ」
「うん、私も」
地上に着くまで、何度もキスを繰り返す。
「じゃ、また明日ね」
公園で見えなくなるまで健人に手を振り、家に帰ろうと──。
「いっ!?」
思わず、その場にうずくまる。
お腹に、突き刺すような鋭い痛みが襲う。
まるで…なにかがお腹の中にいるかのように。
熱い。
お腹が熱い。
「大丈夫?」と、どこかで聞いた声がした。
「…桐子?」
「やっぱり優香だ、どうしたの?またお腹が?」
「うん、また痛くて…」
「吐き気は?」
「少しだけするかも」
「ねぇ、それってもしかして…つわりじゃ?」
「つわり?それはないよ」
「でも、ちゃんと確かめたほうがいいよ」
桐子が、とても心配そうに私の顔を覗き込む。
だから私はつい「分かった」と答えて、家に帰ったんだ。
そして、机の上には『妊娠検査薬』がある。
帰りに薬局で買った。
吐き気に腹痛、倦怠感、どれもつわりの症状に当てはまってるけど…。
やっぱり『妊娠』なんてあり得ない。
それでもお腹の痛みはおさまらず…私は検査薬を試した──。
「うそでしょ!?」
何度も確認したけど…結果は陽性。
つまり、妊娠していることになる。
いや、こんな馬鹿なことって…。
その日はどうしても眠れず、次の日は学校を病欠して隣町に向かった。
『産婦人科』
きっと、妊娠検査薬はなにかの間違いだ。
そのことを証明するために、ちゃんとした検査を受けないといけない。
ただの生理痛に違いない。
妊娠なんて、あってはならないんだ。
だって。
だって私は──。
「妊娠2ヶ月です」と、医師が告げた。
私は、処女なのに…。
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なんでかな?