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「……そうか……まだ……手がある……」
私は震える手で、刀で削ったドラゴンの鱗を拾い上げる。
体中が痛むが、これが最後のチャンスだ。
「この世界のルールを使って……逆転してやる!」
「お姉ちゃん?」
「ふふふ……エスト様。戦術は閃きから生まれます。相手の力を──力で奪う!!」
「まさかその鱗を……?」
「そうよ! 勝つために必要な行動にためらいは不要!!」
「ふん。その我の鱗がなんだと言うのだ? 敗北を認めろ。このままだと死ぬぞ? 鬼の娘よ」
ドラゴンは大きく翼を広げ、地面を尾で叩きながら言った。
「ふふふ。お黙りなさい。ト・カ・ゲさん。いいこと? よく聞きなさい? 私はね……あッははッ! なんと! 食べた相手のスキルを得る事が出来るのよーッ!」
削った鱗をヒラヒラさせてドラゴンに見せた。
「な、なんだと!」
鱗をじっと見つめながら話を続ける。
「うーん? これを食べたらどんなスキルが私のものになるのかしらー?……咆哮かしら?……それともブレスかしらー? おーっと?……エクストラスキルかもねぇ……?」
鱗を眺めながら、値踏みするように笑った。
ぺろっ(※確認は大事)
「ふふっ。さあ、これを食べたらどんなスキルが私のものになるのかしらぁ!?」
「……いま、舐めたか?
ま、待て! お前、本気で──!?」
ドラゴンが半歩、引いた。
「お姉ちゃん!? それ、本当に食べるの!?」
「ムダ様はこう言った……『勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ』」
(冬眠はネタスキルだった……でもこれは、ドラゴンのスキル……伝説の生物のスキル……レベル300のスキル……つまり、当たりに決まってるじゃん! うっわ! 天才かも私!!)
「や、やめ──!」
── 私は、迷わず鱗を口に運んだ。
ゴクン……ッ!
「あはははははは! もう遅いわよ! げぁーッはッはッはははーッ!!」
「お姉ちゃんその笑い方やめて?」
「鬼の娘……お前……ヒロインじゃないのか?」
「伝説の旨味、いただき──……不味ぅううううう!?」
「我、不味いのか……」
ドラゴンが傷ついた表情をする。
──静寂。
そして、天の声が聞こえる。
『サクラはスキル《体温調節 (変温性)』を習得しました』
「スキル獲得したわよ! あはは!……は……ッ?……あれ?……えっと……」
(静寂)
……ちょっと待って。今、なんと?
「聞き間違えかな……? あの……天の声さん? 申し訳ないのですが、もう一度お願いできますか?」
『チッ!……サクラはスキル《体温調節(変温性)』を習得しましたぁッ!』
『スキル《体温調節 (変温性)》:要するに──寒いと、動けません』
魔界ナメクジがゆっくりと通り過ぎた。
『ワロタ』
「あぁ!! やっぱり聞き間違えじゃ無かったみたい!! 良かった!! 天の声さん、ありがとうございました……もうテメーは黙ってろ!!……うん。ちょっと整理しよう」
『ひどい。傷ついた』
「うっさい!!」
「な、なんだ?」
ドラゴンはソワソワしている。どうやら気にしている様子だ。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「二人ともちょっと黙ってて! それどころじゃないの!」
「「はい」」
エストとドラゴンが同時に返事をする。
(脳内で整理中)
「……って! デバフじゃねぇかああああああああッッ!!」
三者、同じ角度で首だけ15°傾けて静止。
「「「……………………………?」」」
「……いやいやいやいやいや!! 私が欲しいのは火炎ブレスとか、咆哮とかそういうやつ!!」
「お姉ちゃん! 状況説明して! ドラゴンさんが困ってる!」
「え、えっと……我がなにか不味いことを……?」
「あの……ドラゴンさん?……お忙しいところ申し訳ありません…えっと……あのー……やっぱり見た目からすると爬虫類……に該当しますかね……?」
「う、うむ……まぁそうなるな」
「で、ですよねーw えへへw」
私は全身でタイムの T のジェスチャーをした。
ピッ。
「む、なんだ。タイムか。了解。休戦だ」
ドラゴンの動きが止まる。
そしてすごすごと後ろに下がって行く。
「お、お姉ちゃん?」
不安そうに私を見つめるエスト。
「エスト様……私は鬼となり、人間ではなくなりましたが、本日をもって哺乳類を引退しました……」
「い、いったい何を習得したの!?」
心配そうに私を見つめている。
「む……我がなにか申し訳ないことをしたのか……?」
ソワソワしてるドラゴン。優しいな。
「エスト様……今日はもう……」
(普通ならさ、適当に頭下げて、ヘラヘラして、油断させてぶん殴るんだけど……)
(あいつ相手にそれやったら、こっちが即死する……無理だ……)
(はぁ……くっそ、逃げんのかよ私……)
(逃げる……? いや、これは撤退じゃない……生きるためだ…”守る”ためだ…)
ムダ様はこうも仰っていた……
『逃げることは背を向けることではない。未来に進むための旋回だ。俺はいま、新宿駅の構内で旋回している。未来も出口も見えねぇ』
(……)
……ん……まぁ、新宿駅は魔境だしね。
(あれ? 新宿の話!?)
「ふ……ふふ……エスト様。今は引く時です。これも戦術のうち!」
私は深呼吸し、強がって笑う。
「え……?」
呼吸が震える。笑いたいのに、笑えなかった。
「お願い……今日はもう帰って……ちょっと……横になりたい……」
「お姉ちゃん……?」
── 私は、この世界に来てから初めて泣いた。
◇◇◇
その後、ドラゴンにめっちゃ謝ったら許してくれた。
「そうか……我の “休眠スキル” を取り込んだか……なんかすまなかったな……我のスキル、ちとショボかったな……」
「うん……」
「……それにしても……体温調節か……」
「うん……」
「……それ、我も冬になると洞窟から出られなくなるんだ……辛いよな……」
優しさが逆に刺さる。
「共感いらねぇよ!!」
「……鬼の娘よ。冬はちゃんと暖かくして寝ろよ?」
「アドバイスもいらねぇよ!!」
◇◇◇
やはり倒さないと通してくれないとの事なので、今はトボトボと2人でスタート地点(魔王の間)に戻っているところである。
「お姉ちゃん! ドラゴンさん! 大きかったねー?」
「……そっすね……」
── 地上への道のりは果てしなく遠い。
この作品は心優しいドラゴンとのハートフルファンタジーコメディとなります。
その晩、私は毛布に包まりながらエストを抱きしめながら寝た。
「エスト様。私が得たのは火力じゃない……”成長のきっかけ”です……」
私の声が震える。
『……その”成長”が何の役にも立たないことに気づくのは、もう少し後の話である』
また来た。煽り担当の天の声。
「またお前か!? うっさい!」
(コタツ……この世界にコタツ、導入する……)
『この世界に電気は無い』
「人の心を読むな!!」
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『逃げることは背を向けることではない。未来に進むための旋回だ。俺はいま、新宿駅の構内で旋回している。未来も出口も見えねぇ』
解説:
ムダ様にとって「逃げる」とは、敗北の動作ではなく方向転換の一種である。
人生とは一本道ではなく、時に”旋回”を強いられる迷宮──つまり新宿駅だ。
彼はそこで立ち止まらない。
出口が分からずとも、回る。
改札を見失いながらも、回る。
それこそが彼にとっての「前進」だ。
「未来が見えない」というのは悲鳴ではない。
人は未来を見失って初めて、本当の前進を始める──という矛盾の悟りである。
新宿駅を彷徨い、全てを諦めかけたムダ様が
「虚な目で線路を見つめていたら知らない女子高生に助けられた」と後日談が残っている。
彼は言う。
「俺の未来、新宿駅で終わるかと思った。あの子が俺の未来だった」と。
……なお、ムダ様はこの三日後、また新宿駅で迷子になっている。