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#食
城木豊・36才は、今日も会社へ向かう電車の中。
季節は夏。海水浴にプールにドライブ。キラキラとした恋の季節とも言えよう。
しかし豊は生まれてこのかた恋人というものを持った事がない。
運良く今朝は座れた豊は比較的混んでいる車内で俯きがちにしている。
強く甘い香りがし、ふと目を上げた。人3人分ほど向こうに10代と思わしきカップルがイチャイチャしている。彼女の香水の匂いだろうか。
仲睦まじく……というか、公衆の面前でキスまでする余りにもホットなカップルをチラチラと見る豊。
(ハ~、オレにも恋人が出来たら良いのになー……)
やるせないため息をつく。
*
――――「おはようございます」
「おお、城木君、おはよう。この間の企画、良い感じだね。部長が痛く気に入ったようだ」
「そうですか。ありがとうございます」
「城木さん、おはようございます。これ、今日の書類です」
「ありがとう」
20代の女性社員が豊のデスクに今日の仕事の束を置いて行った。
(可愛いけどな~)
豊にとって、オフィスの多くの独身女性は輝いて見えない。フレンドリーに接し合う仲間がいたとしても妹感覚だ。
決して恋愛対象にはならない。
*
豊は言わずもがな成人男性、男盛りだ。
帰宅し、リラックスするとパソコンにて、たまには成人向けの動画なども見る。
ある夜もそういった時間を満喫していると、画面の広告にふと目が行った。
『マッチングアプリで素敵に出逢ってみませんか!』
「これだ! オレとした事が盲点だった」
豊はタバコをもみ消し、前のめり気味になりつつサイトに登録した。
なにやら男性だけ費用が掛かるという。しかし高給取りとまではいかずとも、取り立てて趣味もない豊は余裕のある生活が出来ている。
月7000円で恋人を作られるかもれないのなら有効なお金の使い方だと判断する。
これまで彼女がいなかっただけでなく、インターネットで恋人を探すという経験も初めての豊。
一生懸命説明に従い、自分の出会いたいタイプの女性の特徴・条件にチェックを入れて行く。
(オレぐらいの年齢の女性がいるのだろうか。こういうものは20代までの若い人向けなのかな?)
わからない事だらけだ。
しかし、説明に従って行くと、なんと70代以上のパートナーも探せると知り、豊は驚いた。
自分が出逢いたいタイプの女性を探すため、スタイルや居住地など、項目ごとにチェックを入れて行く……。
「長い黒髪の女性が良いな~。近隣、関東住まいの人が良い。ンー、グラマーな人が好きだな」
そうして出て来た女性たちのプロフィール。顔写真やその人その人の好きな事柄などが明記されたものがたくさん出て来た。
「翠さん、綺麗だな~」
暫しパソコンの前でうっとりと固まる豊。
『翠です。まずはお友達から始めませんか。人見知りの性格ですが、慣れて来るとおしゃべりになります』
なんとも愛らしい自己紹介が記載されている。
なによりも豊は直感的にこの女性に目を奪われた。
アプリの説明通り『ハートのマーク』をポン! と押した。これは相手に対する自己アピールである。相手も気に入ってくれればハートマークが返って来、マッチングが成立となるらしい。
『翠さん』を見つけた後豊は、もう他の女性のプロフィールを見る気がしなくなった。
彼女の写真から醸される色香と瑞々しさ、優しい雰囲気にときめいた。
色白で切れ長の瞳、日本美人だ。艶やかな黒髪が麗しい。年齢は30才とあったがとても若く見える。
「翠さん、ハートをくれたら嬉しいな」
ちなみに豊のアプリ内のニックネームはサキタだ。そんなに考えずに決めた。
他のSNSなどをぼんやり見ては、またマッチングアプリのページに戻り、翠さんからの反応がない事を知ると、今度はショッピングサイトを眺めたりしつつ豊は翠さんから嬉しい返事が来るのを待っていた。
約1時間後、翠さんからハートが付いた!
チャット画面が出て来た。どうやらここで翠さんと文章のやり取りが出来るらしい。