サイド ユメ
手足が動けるようになったあたくしは大きく伸びをしました。
レンも同じように、体を動かしています。
「後はトキさんだけだな!」
「でも、まだ気絶してるよ……?」
レンの話によると、何もされていないのに倒れたって……。息はしていますけれど、心配ですわ。
「起こした方がいいのか?」
「分かりませんけれど……このままにしておくわけにもいきませんものね」
「トキお兄ちゃん。起きて!」
軽くユズがトキの体を揺らします。これで起きるといいんですけど……。
「…………ん、っ」
「あ!起きた!」
よかった、と思ったのも束の間でした。
ビクリ、と縛られていても分かるほどトキの体が震えたのです。
「え?」「トキ、お兄ちゃん……?」
いやな予感が、いたしますわ……!
「ヒュ、ぁ”、ごめんなさい、いやだやめてごめんなさいごめんなさいっ……ヴァ、アァングッ」
「ト、トキさん?!」
いつものトキじゃないですわ?!焦点もあっていないですし、この表情は……!
「い”っ……ヒュッあゲホゲホ、ウヴゥ……」
瞬間、言葉では言い表せないほどのトキの恐怖、怯え、痛み、焦り、後悔、トラウマがあたくしの脳内を直接襲ってきました。
絶望が『希「望」を「絶」たれる』と書くのなら、このトキの思いはそんなものではなく、元々希望なんてない。……それよりも、もっと酷くて、暗い、何か。
あまりの強い思いに、あたくしは体を支えられなくなりましたわ。
「ユ、ユメ?」
「……ッ、大丈夫でしてよ」
あたくしは、ですけれど。トキは……一旦、落ち着かせないとヤバそうですわね。
「トキお兄ちゃん?!しっかりして!」
「ゆっくり深呼吸してくださいまし。ゆっくり、ですわよ」
「ヒュー、フッヒュッ、フー、フゥ……ぁ、みんな……?」
「トキお兄ちゃん、大丈夫?!」
ユズがそう問いかけることで、トキはようやく現実に戻ったようでした。
「……うん、大丈夫だよ。もう、大丈夫」
ゆっくりと、まるで自分に言い聞かせるように、歪んだ顔で「大丈夫」を繰り返すその様子に、あたくしは胸が痛みました。
それはあたくしだけではないようで。
「トキさん、絶対大丈夫じゃないですよね?!一体何があったんですか……?オレたち、仲間ですし、話してくださいよ……!」
けれども、トキは首を左右に振りました。
「……ごめん。話したく、ないんだ」
「どうしてですの……?」