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「えっ! い、いえ! 私がなんて……いっ、いただけないですっ!」
とても高価そうな上に、お父さまからプレゼントされたお母さまの形見だなんて、簡単にもらえるわけもなくてと首をぶんぶんと横に振る。
「いや君がもらってくれれば、母も、そして父も、きっと喜んでくれるだろうから」
「でも……、」と、口ごもる。
「……どうして、急に……」
突然なことに、戸惑いが隠せないでいると、
「それは……、」と、彼が何かを言いかけて、私からふいと視線を逸らした。
「それはだな……、この指輪も、引き出しの奥で眠っているより、君の指に嵌められている方が、ふさわしいと思うからで……。……だからどうか、もらってはくれないか?」
どこか言葉を選んでいるような話し方に、ふとここまで、『姫と王子は、城でいつまでも幸せに暮らしました──』だったり、『この先も私のそばに、ずっといてくれるか?』と、問われたりと、
はっきりと明言されたわけではなかったけれど、一連のもしかしたらとも取れるような彼の言動に、
本当にもらっても構わないのかなという思いはまだありはしたけれど、断るべきじゃないように感じて、「はっ、はい!」と、半ば反射的に答えた──。
「あの……、私がいただいて、良ければ……」
勢いづいて返事をした後に、はにかんで付け足すと、
「ああ、君にもらってほしい」
そう彼が応じて、そっと私の左手を取ると、深い藍色をしたサファイアのリングを薬指に差し入れた。
「とっても綺麗で……。あっ……と、ありがとうございます!」
自分の手で光り輝く指輪を、こんなのしたことがなくてと眺めていたら、お礼が後になってしまっていたことに気づいて、慌てて彼にそう伝えた。
「ありがとうと言いたいのは、私の方だ。ぶしつけな私の願いに応えてくれて、本当にありがとう」
黙ってただ首を振った。指に嵌まったリングを見つめていると、亡くなられた彼のお父さまのことや、お母さまのこと、そうしてそれを私に託してくれようとした彼の真摯な想いがどっと胸になだれ込んで、涙がこぼれそうにもなった。
「どうした、泣いたりして」
涙の滲んだ目尻に、彼の指先が触れると、シャツの袖口からあの香水がふわりと香った。
「……コロン、手首につけていて?」
問いかけた私に、「ああ」と彼が頷いて、「香りのことを少し自分でも調べて、つける場所もいろいろと試しているんだ」そう続けた。
「手首は、脈を打つ度に香るので、実際にコロンをつけるのには効果的でして」……なんて、やけに説明口調になったのは、彼から匂い立つ艶っぽい香りに、たまらなくクラクラしちゃいそうにも感じたからだった。