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ところが香水の話で胸のドキドキを落ち着かせるつもりが、間近に感じる魅惑の香気に当てられて、花に吸い寄せられる蝶のように彼の胸に誘い込まれそうにもなって、
「えーっと……、あ、あの、貴仁さんは、どんな本を読まれていて?」
動揺を隠そうとうろうろと視線をさまよわせた末に、目に入った部屋の本棚へ、とっさに話題を振った。
「うん? 本か……そうだな、ビジネス書が基本多いかもしれないが、いっしょに本棚を見てみるか?」
うまく気持ちを逸らせたことにホッとして、「は、はい!」と頷くと、ともに部屋の奥の本棚へ向かった。
「会社経営論とか、お堅い本がやっぱりほとんどですね」
並んだ本の背表紙を眺めて呟く。
「ああ、そういった類いのものを読むのが、習慣化していてな」
「でもそれだと頭があまり休まらないんじゃ。貴仁さんが、ひと休みに読むような本って、ないんですか?」
お仕事ももちろん大切だけれど、こないだも倒れたばかりだし、たまには休息も必要じゃないのかなと、少し心配になる。
すると彼は、しばらく考え込むように顎に手を当てて、「疲れた時に読むのは、これとかだな」と、本棚に並んだ二冊の本を手に取った。