テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「じゃあ、おどろくのお母さんは、国を守ってくれてたんだね」
彼女はそれこそ平気そうにぽつんと言ったものの、声はかすかに震えていて、俺まで泣きそうになってしまった。こんなに目頭が熱くなったのは何年ぶりだろうか。
俺は溜まっていたもののすべてを吐き出してしまった。
しぇいどさんも俺と同じで彼女には何も伝えるつもりはなかったのだろう。
しかし、こんなにも大きくなった彼女にすべてを隠すのは流石に無理だったそうで、感づかれるのも時間の問題だったはずだった。
ボスは俺とおんなじ気持ちだったんだ。それでも無理して感情を押し殺して。
あの人は馬鹿だった。とても優しい人だった。
正反対だと思っていた親子はまるで似ていて、今思えばボスなりの「正義」だったんだろうな。
こんなことを考えて感傷に浸っている俺を横目に、彼女は言う。
「どうして、どうして今言うのだ?おどろくが我慢出来ない子だと思ったから?」
違う。違うよ。
「お母さんと会いたかった」
ああ。恐れていた言葉。
もうあの人は帰らないのにね。
「もし会えるなら、俺だって会って話したい。」
今度はボスと部下じゃなくて、この戦争を生き抜いた戦友として。
強がって意地はってたあいつを叱ってやりたい。
俺があのとき「逃げよう」って強く言えてたら。
この世界に恨みと戦争なんかなかったら。
きみはただの明るい女の子で、
お母さんとあのパン屋さんに通っていたのかな。
「…おどろくちゃんはさ、もし君が今不幸だったら、君の大事な人が不幸だったら、どうしたい?」
とうの昔に聞いたこと。
みんなを幸せにしたい。またそう返ってくると思った。
「あたしが不幸になるのは別にいい。でもさ、きみたちが不幸になるのは違うじゃん」
「だからね、戦争なんかおこす馬鹿な奴らはいなくなってほしいのだ」
低い声で彼女は言った。
しぇいどさんとどんなふうに過ごしてきたのかは知らないが、
彼女はおとなになっていた。
俺は少しだけ、ほんの少しだけ、安堵してしまった。
しぇいどさんが笑う。
「ようこそ。貴方が只今からここのボスです。何をするも、貴方の自由。私達はそれについていきます。」
俺はきっと一生あのときのしぇいどさんの笑みは忘れられないだろう。
「殺しなんてしなくていいんだよ。俺達はともかく、きみは、さ。」
「しぇんぱいはいつもそうだったのだ。おどろくはもう子供じゃないのだ。」
「またそのときになったらあたしに殺しを教えてね。」
思っていたよりも彼女の芯は強くて、こんなにも早く前をむこうとしている。
俺もからっぽじゃいられないな。
「じゃーまずはなにしたい?」
「うーん…えっと、」
「君たちをコンブ?にするのだ!」
「幹部ですね」
「おかのした!しぇいどさん、大変だったと思うけど、資料の受け継ぎってどのくらい進んでる?」
「前ボスが優秀なお方でしたのでほぼ終わってますね。北へ大半の構成員が送られてしまったのでメンツはリセットになりますが…幹部枠、凸もりさんは継続でいいですね?」
「うん。でもさー久しぶりに聞いたわ幹部って」
「しぇいどしゃんもしゃんぱいもこっちに来るのだ!」
俺が知らない間に屋敷を探検していたらしく、今や俺よりしぇいどさんたちのほうがここに詳しかった。
久しぶりに裏庭へきた。
ポプラが生い茂って、少し伸びたガーデニングは初めてここに来たときと変わらなかった。
それから、3人でピースをして、ぎこちなくスーツも着て、たくさん写真を撮った。
なんだか家族写真みたいで、到底マフィアのボスと幹部のものとは思えない写真だったが、それが彼女なりの第一歩であり、俺達の居場所なんだなと思った。
この国は隣国の支配下になり、戦争を先導していた前ボスの巣であるここなんて尚更で、今俺達がここで写真なんか撮っているのもだいぶ時間を詰めていたらしく、しぇいどさんから聞いた話だがこれも前ボスが先を見据えて遺した時間だという。
夕方、俺達はこの屋敷を出発することになった。
改めてみると、帰ってきたときは気が付かなかったが、人一人もおらず、まるでもぬけの殻だったからあの人はやり手だなと思った。
「おどろくちゃん忘れ物ない?」
「持っていきたいものはいっぱいあるけどしぇいどしゃんがうるさいから…」
「大体おどろくさんは物が多すぎるんですよ…!何で机の引き出しが閉めてもゆっくり開くんですか」
「じゃあ逆になんでしぇいどしゃんとしぇんぱいはそんなに荷物がないのだ!」
「俺は遠征多かったからね〜」
「ほらほら皆さん、迎え来てますからお早く!」
「わかったのだー」
「ほい」
よもや帰ってきてから1日もたたずにここを出るなんて。
さっき撮った写真と紙切れを空っぽだった宝箱にしまった。
壊れていた腕時計の針はいつの間にか動き出していて、今も俺たちは車に揺られている。
━━━━━━━━━━━━━━
今回はここまで。
もし良ければ、表現の部分など考察していただけると嬉しいです。
不定期になりますが、更新続けます。
是非、今後とも。
それでは、また!