第一話 ああ無情
※この物語を見つけた方へ
これはスピンオフです。
スピンオフの元となった作品「とある日私は最弱から最強に_?¿」1話〜13話と18話の内容を含みますので、そちらを先に読破する事をおすすめします。
特に10話〜13話、18話を最後までよくお読みください。
それ以外は読まなくても特に支障はありませんが読んでおいた方が色々分かるかもしれません。
時は20XX年。
その世界は、誰しもが“能力”を持っている世界。
能力とは、【火、水、木、風、金、光、闇】の7つの属性で魔術や魔法を生成すること。
その強さでランクも決まる。
無能力のFランク、普通レベルのE〜Cランク。
そして危険ランクとされるB、A、Sランク。
無能力において人権はほぼ無いものに近しい。
危険ランク達は通常ランクの人間達に危害を加えかねないと言い、強制的に高能都市、所謂監獄島なるところに送られる。抵抗すれば軍部が動くので命はない。
そしてこの日本を支配している政府、もとい【能力者取締役会】は国家権力という国家権力を軒並み管理しているので常にどこかしらが忙しいらしい。
この物語は、そんな政府で働く本編前の楓の素晴らしき8年間の物語である。
────ああ、忙しい。
この仕事を始めたきっかけはなんだっただろうか。
いや、始めたきっかけというより“やらされている”の方が遥かに近い。
ああ、とにかく─────────忙しいのだ。
明日、いや今日の朝6時に締め切りの報告書をあと30枚書かなければいけない。
なのに、眠い。眠すぎる。
マトモに寝たのはいつだったか。それすら忘れてしまっている。
どれだけ無意味で生産性の無い事でも、指示された仕事が期日までに終わらなかったらそれはもう目も当てられないくらい酷い目に遭うのでとにかく何を以てしてでもこれは終わらせなければいけない。
というか、意味もクソも無い報告書を3日で300枚書けとか頭のネジが数本飛んでいるのだと思う。
しかもこれは親衛部隊、軍部の仕事だ。私がやる事ではない。
それもどれもこれもかの悪名高い隊長のせいだ。本ッ当にあの野郎は。…いや、仕方無しに承諾した私も私なのである。
─────遡ること3日前。
廊下を歩いていると、後ろから軽く肩を叩かれる。
振り返ってみると親衛部隊の隊長“キース・スピリセグ”がニッコニコの笑顔で立っていた。
『ねぇ、楓サン。』
『ん、なんですか』
『ボク、この後とある女のコと素敵なイヴニングの約束ヲしていて……───この書類に書いてある内容の報告書、代わりニ書いてくれないでしょうカ?お願いっ☆適当でイイからッ!』
ウィンクと舌ペロをしながらお前マジかよという事を軽々しく告げてくる。
『ええ、イヤです。自分の仕事は自分で片付けなさい。』
もちろん、嫌だったので断った。ではなぜ今このような状況なのか。すべての問題はこのあとである。
『えーー!?部下の仕事は上司が多少なりとも請け負ってくれるんじゃないンですかーーー!?!?断るナンテーー!!!はーツーみーみーーーー!!!!!!!ヒドォォい!!!!楓サンがいじめてクるゥ!!!!』
彼はよく音が響く廊下で、わざとらしく可哀想な自分を演じて叫んだのだ。軍隊仕込みの大声で。鼓膜が破れそうだった。
『なんっっつうこと叫んでるんですか、アホですか、馬鹿ですか!!!っああもうわかった!!!わかりましたから!!!叫ぶなうるさい!!!!』
こんな事を大声で叫ばれて誰かに聞こえていたら私が今後不利になる。
それを分かって言っているこの男が本当に大嫌いだ。
『あ、ホント?じゃシクヨロー。出来たら金月サマに届けてネー。そしてわざわざあの人に事情説明しなくテもイイから。既に承諾済みだからネ』
急に正気に戻るキース。
仕事内容の書類を私の胸に思いきり押し付け、真っ赤で血のような趣味の悪い外套を翻しながら颯爽と去ってゆくのが視界の端にうつる。
表情こそ見えなかったものの、彼の今の表情くらい容易く思い浮かべることができる。
私は止めることも、彼が去っていった方を振り返る事もせず、ただ、ただ呆然と立ち尽くした。
それはもう“ぽかん”という効果音が綺麗に付くような状況だった。
そのときはまぁなんとかなるだろうと、どこか楽観視していた。
だが、押し付けられた書類をよく見ると期限は3日後で枚数は300枚と来た。
やられた、そう思った。
押し付けるにしろもっと前もって言ってくれればまだ1ヶ月も余裕はあったのに。
─────ああ、思い出したら腹が立ってきた。
あのムカつくファニーフェイスを一発ブン殴ってやりたい。これが終わったら、必ず殴り飛ばす。そう心に決めた。
……そんなコトを考えているうちに、時間はどんどん進む。決して止まってなどくれない。
こっくりこっくりと船を漕ぎながら、資料や報告書でざんばらばんになっている机で何本目か分からないエナジードリンクのプルタブを殆ど力の入らない手で開ける。
思い返せば3日程、エナジードリンクしか飲んでいないような気がする。不健康にも程があるというもの。
勢いのままエナジードリンクを呷る。もう味すら感じない領域に入ってしまっている。
なんでこんな目に遭わないといけないのか。
ああ、辞めたい。ものすごく辞めたい、この仕事。
でも物理的に辞められない。辞めるなんてとても言えない。言ったらどうなるかなんて、想像も容易い。
一度入れば最後、抜けさせてはくれない………なんて酷い政府だ。本当に嫌い。マジで大嫌い。さっさと革命でも起きて潰れちまえばいいのに。
─────心の中で悪態ばかり付いていると、気付けばあと15枚。
あともう15枚。頑張ろう……。
―朝6時にて―
「できました、報告書。」
無事なんとか完成させた書類を幹部第一席 金月に持って行く。
この人はうちの幹部で一番偉い立ち位置に居る。
幹部第二席の鏡月さんとはおそらく姉妹のような関係で、鏡月さんにはほとんど仕事が回ってこない。妹可愛さだろうか。
そのおかげでいつも迷惑被っているのは第三席から下の人間。いや、私が一番仕事回されている気がしなくもない。
なにがともあれ、これでやっと地獄のような3日間は終わりを迎える。
「ふーん。やり直し」
はずだった。
たったの5文字が自分を一瞬にして混乱と恐怖と絶望と無情に突き落とす。
「────は?」
「分かったらさっさと持っていきなさい」
返事をする間もなく、死ぬ気で完成させた書類を顔面に投げつけられる。
「い゙っ゙っ゙」
ゴッ、と書類の鋭利な角が顔面の中心にドストライクする。瞬く間に儚く散る300枚の書類と鼻血。私の心を上手く反映しているようだった。
───少しだけ、雅だと感じてしまう私は、とうに壊れきっているのかもしれない。
散りゆく紙 光差す窓 雅かな
あ、死にたい。
──────これは、こんな私の波乱万丈でどこも可笑しいコトばかりの素敵な8年間物語。
コメント
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ダアァアアアァァアアア楓ヂャン!!!! 推しのスピンオフ嬉しすぎる🫶🫶 デヘヘへ社畜の楓ちゃん成分は健康に良い(◜¬◝ ) 楓ちゃんの心の一句素敵ね😚 こき使われて可哀想可愛いわね🥰 私の感想が日を追う事にキモくなってる気がするけど許してね💕︎楓ちゃん𝑳𝑶𝑽𝑬💖 本編も楽しみだけどこっちも気長に続きを待つわ
月一更新くらいにしようかなと 本編も疎かにしたくないし( ˙σー˙ ) 約5ヶ月くらいちまちまちねってました。 よろしくお願いします