今日は、異様に雨が強い。
そんな中、しかも深夜に家から放り出て走るなんてバカみたいだ。
「何してるんです?」
ここ数日、メイドが不審者がいるなんて騒ぎ立てている。
初めのうちはどうでも良かったが、こうもしつこいと気にもなるし、もしかしてと思って来てみたが。
「…」
本当にいるなんてな。
「えへへ…ごめんなさい…」
弱々しい声。
顔は暗くてよく見えないが、声のつまり具合からして、泣いているか、泣きそうか、どっちかだろう。
「ずぶ濡れじゃないですか…あんまり無茶するとまた体壊しますよ? 」
寄り添おうと近寄った。
「すみません…」
でも、目を逸らされた。
「帰りますね…」
「今からですか?」
「…」
「ここ数日、ずっと私の家の周りをうろうろしてたでしょう?」
「…ごめんなさい」
「謝罪はいりませんが」
「…私、変になったみたいです」
「元々変ですよ?」
「それもそうですね…」
家に入れようとも思ったけど、外のほうが、冷たくて心地いい。
それに雨に打たれてぐちゃぐちゃの貴方の方が、室内で暖かくしている貴方よりも随分綺麗。
「私のこと、どう思ってるんですか……? 」
暗くて表情が見えないのが残念でたまらない。
「私に、どう思われたいのですか?」
「意地悪…」
「ふふ、」
「どう思われてても…というか…嫌われてても、私は…受け入れます…でも、まだ…っ」
「まだ?」
「捨てて…ほしくないです…我儘、ですよね…笑」
「あぁ、明日続けるかどうか決めないといけないのか…まぁ、ここで捨てられたら本当に一人になりますもんね?貴方は。私は平気ですけど」
絶望していてくれ。
「………はい…笑」
笑うな笑うな笑うな
「じゃあ…明日までですね!」
前を向くな俺を置いていくな
俺に背を向けて、フラフラしながら別れの挨拶…のようなそんな雰囲気の言葉を、吐き始めた。
「綺麗な街ですね…もうすこし、近くでみていたかったなぁ…」
雨が次第に弱まっていった。
虹なんてかかれば最悪だな。
「私、とっても楽しかったんです!この数年、いつも貴方がいてくれたから、私はここまで世界に認められた。独りじゃ、やっとなくなった!」
眩しい。
街を見ながら私に背を向けて、明るく明るく楽しそうな声が、私が貴方に与えたのは、希望だったの?
違うだろ?
いくら努力しても追いつけない絶望と輝かしい俺とは反対だという劣等感。
それを味あわせたいのに。
「ほんとに…ほんとに…楽しかったから……っ」
あれだけ嫌味を言われておいてよく言えるな。
俺はずっとお前を貶してきたはずなのに。
「…っ」
振り返ったその幼い子は、小さな下唇を噛み締め、何かを訴えるような歪んだ目をして、こちらを睨んでいた。
「はぁ…」
「ごめんなさい…っ笑顔で別れようって決めてっ来たの…にっ…」
「だから、私がいつ続けないなんて言いました?」
「え…」
「自嘲が過ぎますよ?あのクソ仏国のとこ行ったら真っ先に嫌われますよ?」
さっきまで下を向いていた長いまつけが上がり、小動物のような大きい眼球がひらいた。
「続けてくれるの?」
「続けますよ。」
「やった…やったぁ〜!!」
幼稚に手を上に広げて、あからさまに喜んだ。
「あ、条件とかありますか!どこかの国とたたかって勝つ〜とか!アメリカさんとかは…ちょっと無理だけど…亜細亜の方々なら負ける気がしませんよっ!私ロシアさんにまぁ……ほぼほぼ…?勝ちましたもん!」
「私のおかげでしょうが」
「えへへ、そうでした」
「でもまぁすごかったけど…」
「あれから数日寝れなかったんですよ…勝った〜!勝った〜!って、!」
「それはわかります。」
「で、その、えぇと…」
「はい?」
「また…褒めて…くれませんか…///?」
脳殺される。
死にそう。
後ろで手を組んで、脚は内股ぎみ、少し近づいて、下からの上目遣い、ほのかな…いや、だいぶ赤くなってしまった頬。
あざとい癖して、全く自覚ないタイプだ…
「だめ…ですか?///」
もう無理だ。
咄嗟に赤くなった頬を両手で掴んで顔を近づけた。
「……っ!///」
更に頬が暖かくなっているのが分かった。
「ん…///んっ///」
地面がコンクリートでよかったな。
じゃなきゃ押し倒してた。
雨はすっかりやんで、じとじととした空気が舞っていた。
小さな口の中は、思いの外熱かった。
頬から腰に両手を移し、舌を自分の口に抑えた。
「…///」
「…」
「ふふっ///」
「ほんとはわかってました貴方は私のこと、絶対捨てたりしない!って」
「意地悪なのはどっちだよ…」
「さぁ?///」
こくっと首を傾げて小悪魔は微笑んだ。
全部、計算通りっ!そんな満足げな顔をして。
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