音葉はその夜、いつも通りStarLiveで配信を始めた。
画面越しに映る彼女は、柔らかなピンクのトップスに身を包み、明るい笑顔でリスナーに話しかける。
「頑張ってる人が、なかなか報われない世界って、悲しいよね。」
彼女は穏やかに語り始めた。
「裏で誰かが足を引っ張ってるのかなぁ……なんて、考えちゃう時もあるよね。」
コメント欄が静まり返り、リスナーたちの脳裏に“誰か”の姿が浮かぶ。最近、急速に注目されているミィコの名前が、自然と頭をよぎった。
音葉はさらに、さりげなく言葉を重ねた。
「頑張ってるって、ちゃんと伝わるものだと思うんだけどなあ。」
彼女は小さく首をかしげ、優しく微笑む。
「純粋に頑張ってる人が報われる世界であってほしいな…。」
明言はしない。だが、聞いているリスナーたちは、彼女の言葉の裏にある“何か”を感じ取り、自分たちで“答え”を見つけ始めてしまう。SNSでは
「これってミィコのことじゃない?」
と噂が立ち始め、ミィコとそのリスナーたちが裏で何かしているのでは──そんな空気がじわじわと広がっていった。
音葉はあくまで何も指示しなかった。ただ、疑惑の種を蒔き続ける。匿名アカウントで、
「最近ミィコって、応援が不自然に増えてるよね」
「あの人たち、裏で何かしてない?」
と呟き、拡散させる。そして自らの配信では、あくまで
「私は誰のことも責めたくないんだけどね」
と微笑んだ。その“清廉な態度”が、逆にリスナーたちに
「音葉は正しい」
「疑わしいのはミィコ」
という印象を強めさせる。事務所の協力者に
「音葉からのお願いなんだけど…これ、ちょっと広めてくれないかな」
と冷静な声で頼む姿は、配信中の明るさとはまるで別人だった。
「ミィコ、最近雰囲気変わったよね」
「頑張ってるように見えないのに、どうしてあんなに注目されてるの?」
そんな言葉がSNSや配信コメント欄に並び始めた。音葉はそれを見届けるだけだった。
──自分はただ、空気を作っただけ。誰にも責められることなく、ミィコへの信頼を少しずつ削り取っていく。
彼女の口元には、満足そうな笑みが浮かんでいた。
#音葉の策略 #匂わせ発言 #配信者の影 #疑惑の種 #操作される空気 #リスナー心理戦 #表と裏の顔 #匿名の呟き #信頼の崩壊 #言葉のナイフ