「おい、いきなり俺の前で惚気始めるな」
涼さんは溜め息をつき、「あとは何かあったかな」と腕組みして考える。
「学食ではチキンタツタ丼とか、親子丼、カレーが多かったけど、たまに鯖の塩焼きとか食べて、魚食って偉いなって思ってたな。野菜もちゃんと食ってた」
「ほうほう、偉い偉い!」
尊さんをナデナデすると、彼は「あのなぁ……」という目で私を見てくる。
「朝は登校したあと普通に講義を受けて、サークル活動はなし。でも講義の合間とか放課後には、俺やその他友達と集まって、投資のノウハウについて教え合ったりとかしてたな」
「ああ……、さすが……」
きっとリンゴのマークがついた、薄型ノートパソコンを持ち歩いていたに違いない。
「……女友達を引き連れていたりとかは?」
尋ねると、二人は顔を見合わせる。
「んー、なんて言えばいいかな……」
そう言って首を傾げる尊さんは誤魔化しているというより、微妙な事をどう説明すべきか考えているようだ。
ここで濁されたら、普通は不安になるかもしれない。
でも私は尊さんは女性関係に関しては嘘をつかないと分かっていたから、安心できていた。
他の事についてはもしかしたら誤魔化されている事もあるかもしれないけど、複雑な人生を送ってきた彼の事だから、伏せたい事の一つや二つはあると思っている。
だから黙っていたり、私を傷つける嘘をつかない限りは無理に暴きたくない。
ただ、女性関係については多少傷付いてもいいから、全部知っておきたかった。
尊さんはお酒を一口飲んだあと、溜め息をついてから言う。
「〝できそう〟なやつに興味を示して『何やってんの』って一緒に行動するようになった女子はいた。その子たちも投資に興味を持って勉強会に参加してたけど、やっぱり下心は多かれ少なかれあったわけだ。……でも、俺たちがいつまで経っても世界情勢やら経済ニュースやらの話ばっかりしてるもんだから、そのうち参加してこなくなったかな」
「ほう」
私は相槌を打ち、唐揚げをヒョイパクする。
そのあと、涼さんが尊さんの話の続きを請け負った。
「俺たちは自由な大学生時代にこそ、有益な情報を語り合える仲間と濃密な時間を過ごしたかった。つるんでいたのは親の望む職業に就く奴とか、入学した時点から就きたい職業が決まっている奴ばかりだったから、余計に在学中に横の繋がりを作っておこうと思っていたんだろうな。恋人を作るのは社会人になったあとでも間に合うわけだし」
涼さんの言葉を聞いた私は、自分の大学生生活との違いに羞恥を覚えてしまった。
あの頃の私は昭人一筋で、彼の一挙手一投足に気を取られ、バイト先の人間関係に悩んだりしていて、尊さんたちみたいにしっかりしてなかった。
つくづく、目の前にいる二人はレベチで優秀な人なのだ。
「……私といてつまらなくないです?」
思わず尋ねると尊さんは軽く瞠目し、苦笑いすると頭を撫でてきた。
「毎日とても愉快だけど? 朱里以上におもしれー女はいないけど」
「なら良かった」
安心して微笑んだ時、涼さんが私を見つめているのに気づいた。
「ん?」と彼を見つめ返すと、彼は尊さんに向かってヒラヒラと手を振る。
「尊、ちょっと外してくれるか? 朱里ちゃんと二人で話したい。心配ならカウンターにでも座って、ウォッチしてなよ」
私はいきなりそう言われて目を丸くし、尊さんも少し動揺する。
けれど彼は何かを察して「分かった」と言うと、立ちあがってカウンターに向かった。
涼さんはゆったりと脚を組み、私に微笑みかけてくる。
「さて、邪魔者はいなくなった。……俺にもっと突っ込んだ事、聞きたくない?」
そう言われた私は、さっき言いかけた宮本さんの『み』でピンときたのかなと思い、その鋭さに舌を巻く。
私はカウンターに座って新しいお酒をオーダーした尊さんをチラッと見て、小さく息を吐く。
尊さんはよほど涼さんを信頼しているのか、こちらを気にする素振りは見せない。
私は俯いて膝の上で指を絡ませ、少し迷ってから切りだした。
「…………尊さんの元カノについて知りたいって言ったら、呆れますか?」
「そういうもんだろ。別に特別じゃないよ」
特別じゃないと言われ、私は曖昧に微笑む。
その言葉はスパッと切り捨てているように聞こえるけれど、今の私には「そう重たく捉える事はないよ」と慰めてくれているようにも思える。
涼さんは基本的に誰に対してもフラットで、感情的にならなそうだから、そういう言葉一つにしても信頼できるのだと感じた。
私はカクテルを飲んでから、少し言葉を迷わせつつ言う。
コメント
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気になることこの際聞きまくろう٩(`・ω・´)و オォォォ!!! 涼さまはきちんと答えてくれるよ😉