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第41話 〚夏の始まり、距離が縮む音〛
七月の朝は、
もう少しだけ暑かった。
登校中、
蝉の声が遠くで鳴いている。
澪と海翔は、
並んで歩いていた。
言葉は少ない。
でも、沈黙が気まずくない。
それが、
少し不思議だった。
「……夏だな」
海翔が、ぽつりと言う。
「……うん」
澪は頷く。
風が吹いて、
澪の髪が少し揺れた。
その一瞬、
海翔の視線が止まる。
「……そのさ」
「?」
「前より、よく笑うようになったよな」
澪は驚いて、
一瞬言葉を失った。
「……そう、かな」
「うん」
海翔は照れたように視線を逸らす。
「安心する」
胸の奥が、
きゅっと鳴った。
(……そんなこと、言われたら)
学校。
昼休みも、
放課後も。
自然と、
同じ場所にいることが増えた。
屋上。
図書室の前。
放送室の廊下。
近くにいるだけで、
心が落ち着く。
放課後、
帰り道。
夕焼けが、
空を染めていた。
「なあ」
海翔が、
少し真剣な声で言う。
「最近さ」
澪は、
足を止めた。
「澪といると、時間早い」
「……私も」
小さな声だったけど、
確かに届いた。
二人の距離が、
ほんの少し縮まる。
触れそうで、
触れない距離。
心臓の音が、
やけに大きい。
「俺」
海翔は、
息を整える。
「澪が無理しないで笑ってるの、好きだ」
澪は、
何も言えなかった。
ただ、
胸が熱くなって。
――妄想(予知)。
でも、
今回は映像じゃない。
未来でも、
警告でもない。
ただ、
穏やかな確信。
(……大丈夫)
(この人となら)
夕焼けの中、
二人は並んで歩き出す。
まだ、
恋人じゃない。
でも――
もう、
特別だった。
夏は、
始まったばかり。
そして、
二人の距離が縮む音が、
確かにそこにあった。