次に目が覚めたのは、白いベッドの上。
僕の手首には点滴がしてあって、周囲を見渡しても手首より遠い物は何も見えない。
しばらくして、看護師さんが入ってきた。
看護師)あ、目が覚めたんですね…。
オスマン)ぁ、あの…どうして僕はここに?
看護師さんはしばらく黙っていた。しばらくぶりに口を開くと、彼女は重々しい事実を僕に打ち明けた。
看護師)その…あなたは2ヶ月以上眠ったままだったんです。その間に身体の傷や骨の形成は終わったんですが、視力はどうにも…。すみません。分かりませんよね。
酷く申し訳なさそうに伝える看護師さん。しかしやっぱり顔はぼんやりとしか見えない。
オスマン)いえ…大丈夫です。それより…あのロマノフ家?って人たちはどうなったんですか?
看護師)あ…彼らは…。その、言いづらいですが、摘発されて今は裁判にかけられています。
ロマノフ家は気に入った一般人を誘拐し、自分の元で囲う風習があった。それが人道的に良くないとされ、摘発されたのだと続けた。
看護師)あ、そうだった!目が覚めたって院長に伝えないと!
彼女は忙しなく去っていった。僕は頭に巻かれた形式上のみの包帯を解くと、近くにハンガーで吊ってあったシャツとデニムに着替えた。
オスマン)…もう5月、なんだ。
本当はみんな高校生になって、別々の道を歩んでいくはずだよね。でも、僕は止まったまま…
しばらく黙っていると、院長が部屋に来た。
院長)オスマン君…だったね?怪我ももう問題ないし、視力も長期的な治療を続ければ治る。もう問題ないよ。退院で…。
オスマン)はい、ありがとうございました。
本当は、僕に行き場なんてないけど…
やっと自由…なんだね。
僕は小さな折りたたみ財布に入っていた5000円札と100円玉3枚をどこかへの片道切符に変えて、電車に乗り込んだ。
ロマノフ家に関する新聞も買って、肩掛けの鞄に押し込む。
イタ王君、さよなら。メール返せなくてごめんね…。
僕は小さな声で呟いたけど、きっとみんなには聞こえていないよね。
電車が発車して、僕は窓の外−海の近くを走っていたからか、開放的な気分。
オスマン)わぁ…綺麗。
自然と声が漏れていた事に気づき、恥ずかしくなった。
切符に書かれた駅名と同じ所で降りると、そこはいつだったか自分の住んでいた町と似た雰囲気を漂わせていた。