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──食事を終えて、ワインを飲んだ。
彼女と飲んでいると、いつもより酔いがまわって饒舌になるようで、誰にも打ち明けたことのない心情まで口にしていた。
「……私は、幼い頃から父が大好きで、父のような人になりたいと思っていました。けれど、」
ふと自責の念に駆られて話が途切れると、空いていたグラスにワインが注ぎ入れられた。
「……けれど私は父のようにはなれずに、大人になればなる程、厳格な母に似通ってくるようで……」
話し終えると、足されたワインを飲み干してため息をついた。
「……誰も愛そうともしない母と、誰も愛してもこなかった私は、そっくりです……」
こぼれる本音が止まらなくなるのに、
「……そんなことはないですから」
と、彼女が首を横に振る。
「先生は、私を愛そうとしてくれてますし……」
そうなんだろうか……と、未だにはっきりとは自らの気持ちの在り処がわからずにいると、
「それに、これから愛していけばいいじゃないですか……」
彼女がそう話して、ひと息を吸い込んで、
「……私が、お付き合いをしますので」
と、伝えてくれた──微かに潤んで映る眼差しに、本心からだということが知れると、驚きが口をついた。
「あなたが、本当に……?」
まさかそんな風に考えてくれるなどと、信じられないような思いで彼女の顔を見つめ返した。
「……お付き合いをしていく中で、答えを決めさせてください……。さっき先生が言われたように、私にも……本当に愛していきたいと思うのかを、考えていく時間がほしいから……」
真っ直ぐな彼女の想いに、こちらまで顔が俄かに赤らむようにも感じながら、
「……結果は、あなたにお任せしますよ」
と、告げた。彼女が真剣に出した答えならば、どんなものであろうと受け入れる心づもりだった……。