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遊園地でのアトラクションの話はもちろん
帰り道での岬くんとの甘いやり取りまで、 話せることは全て話した。
母さんは、時折相槌を打ちながら、興味深そうに僕の話に耳を傾けてくれる。
その真剣な表情を見ていると、話すことで自分自身の気持ちが整理されていくような気がした。
楽しかった思い出が、より鮮明に、そして確かなものになっていく。
「本当に朝陽は岬くんのことが大好きね」
母さんの真っ直ぐな言葉に、僕は途端に顔を赤くしながら、大きく頷いた。
「うん…」と小さく呟く。
自分の気持ちを改めて言葉にすることで、なんだか胸の奥から温かいものが込み上げてきて
幸せな気分になった。
この温かい感情を、ずっと大切にしたいと心から思った。
すると、母は何かを思い出したように
「そうだ」と言って、席を立った。
母はキッチンカウンターに置いてあった封筒を取りに行き、再びテーブルに戻ってきた。
封筒の中から取り出されたのは、二枚の映画のチケットだった。
「これね、実は職場の人にもらったのよ。最近公開されたSF映画のペアチケットなんだけど」
母さんの言葉に、僕は思わず「え……?」と声を上げた。
僕は食事の手を止め、チケットをまじまじと見た。
チケットに印字された映画のタイトルは、少し前にSNSで話題になっていた
近未来を描いたSFアクションものだった。
巨大な宇宙船が宇宙を駆け巡る、迫力のあるビジュアルが印象的で
「観に行きたいけど一人だとちょっとハードル高いかな」と、密かに思っていた作品だ。
まさか、こんな形で手に入るとは思ってもみなかった。
「母さん、SFとか全く興味ないからねえ」
「職場の人は家族全員風邪で行けなくなったらしいの。期限も近いし勿体ないからもらってきちゃったんだけど」
母はそう言って、二枚のチケットを僕の方へ滑らせた。
その手つきは、まるで僕へのプレゼントを渡すかのようだった。
「だから朝陽、これ、せっかくだし岬くんと一緒に観に行ってきたら?」
「えっ…?でも…」
僕はチケットと、優しい眼差しを向ける母さんの顔を交互に見た。
突然の提案に、どう反応していいか分からなかった。
「遠慮しなくていいのよ。私が持っていても使わないものだし。それに」
母さんは意味ありげに、にこりと笑って続けた。
「ちょうどいいじゃない?次のデートの予定が決まって」
その言葉に、僕はハッとした。
そうだ、いつも岬くんにデートプランを立ててもらってばかりだったけれど
これは僕が岬くんをリードする、絶好のチャンスじゃないか……!
僕の胸に、新たな決意が芽生えた。
「あ……ありがとう…母さん!僕、みさきくんのこと誘ってみる…!」
勢いよくお礼を言うと、母さんは僕の満面の笑みを見て、さらに嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふ、よかった。楽しんできなさいね」
こうして僕は、母さんの温かい協力もあって
次のデートの予定を立てる大きな一歩を踏み出すことができたのだった。
心の中には、岬くんを喜ばせたいという強い思いが溢れていた。
◆◇◆◇
晩御飯を終え
僕は自室に戻ると、まだ熱を帯びたままの心臓を落ち着かせるように、大きく深呼吸をした。
そして、すぐにスマートフォンを手に取り、LINEアプリを開く。
指先が少し震えるのを感じながら、岬くんのトーク画面を開き、慎重に文面を打ち始めた。
【みさきくん、夜遅くにごめん!3分だけでいいから電話できたりするかな…?】
送信ボタンを押して数秒。画面に既読の文字が灯った。
その瞬間、心臓が大きく跳ねる。
【全然いーけど、どうしたの?何かあった?】
すぐに返信が来て、僕は驚きと同時に
胸の奥から温かいものが込み上げてくるのを感じた。
この素早い反応が、岬くんの優しさを物語っているようだった。
【その、デートのお誘いといいますか…】
絵文字を添えて送ると、さらに素早い返信が来た。
【ガチ?すぐかけるね】
メッセージを送ってから、本当に数秒後には、スマートフォンが震え、軽快な着信音が鳴り響いた。
「あっ、みさきくん?」
僕は慌てて通話ボタンをタップした。
「もしもーし」
電話越しに聞こえてきた岬くんの柔らかく、少しだけはしゃいだような声に
僕は張り詰めていた緊張がふっと解けるのを感じ、ホッとした。
「突然ごめんね?あのさ」
「うんうん」
岬くんの穏やかな相槌が、僕に勇気をくれた。僕は深呼吸をして、本題を切り出した。
「実はさっき母さんから映画のチケットもらったんだけど」
「へえ、何の映画?」
岬くんの声には、純粋な興味が滲んでいた。
「みさきくん知ってるかな。今公開中のSF映画で『スペース・ディメンション』っていうんだけど……」
僕は少しだけ自信なさげにタイトルを告げると
「あ〜それ知ってる知ってる!ずっと気になってたんだよね!観に行こうと思ってたんだ」
岬くんはそう即答してくれた。
その明るく弾むような声に、僕の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「ほんと?よかった!じゃあその……今度の土曜日とか一緒に観に行かない?」
僕は少しだけどもじもじしながら、誘いの言葉を口にした。