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ペイルエデン──封印されしアルカディアの最深部に広がるその場所は、一見すると夢のように美しかった。色とりどりの奇妙な花々が咲き乱れ、薄紫の霧がゆらゆらと漂っている。空気は甘く、芳香に満ちているのに、どこか不快なざらつきが舌の裏に残る。
リクは深呼吸をした。
「……ここ、空気がおかしいな」
アイビーは目を丸くしながら周囲を見渡す。
「……きれい。でもなんか、気もちわるい……」
ロビンは周囲を警戒しながらゆっくり歩いていた。
「……見られてる。気ィ、する」
リクは辺りの奇妙な花に目を向けた。花びらの隙間から、時折、薄い緑色の粉のようなものがふわりと舞っている。まるで微細な毒の粉のようだった。
「これは……花粉かな? 毒の花粉……?」リクは眉をひそめる。
そのとき、霧の中から、何かがゆっくりと動き出した。
黒くて滑らかな影のようなそれは、まだ形を成していない何か。
「ナニカ……いる」ロビンの声が低く響く。
アイビーがリクの腕を握りしめた。
「……りく、こわいよ……」
リクはアイビーの手を強く握り返した。
「大丈夫、俺たち一緒だ」
しかし、視線の隅で、影は確実に近づいていた。
──最深部、毒の楽園にて、ナニカが目覚める。
ナニカは赤く光る複眼で三人を睨み、長い触手を振り回す。
「くっ、毒が……!」アイビーが顔をしかめるが、その鋭い触手が彼らに襲いかかる。
リクは素早く分析を始めた。
「ナニカの触手、振りの速度は秒間3回。振り終わりに一瞬の隙がある……よし、そこを狙おう!」
ロビンは緑のボロボロフードを翻しながら、低い声で呟く。
「俺のスキル、使う……爆裂矢!」
矢は分裂し、複数のナニカの触手を同時に切り裂く。だが、毒霧の中で動きが鈍ったアイビーがナニカの触手に捕まる。
「アイビー!」リクが叫ぶ。
ロビンは瞬間移動でナニカの背後に回り込み、次の爆裂矢を放つ。ナニカが苦痛の呻き声を上げ、触手を緩めた。
「いける……!」リクは分析結果をもとに、アイビーの解放に成功。
アイビーは力強く息を整え、「まだ負けない……!」と呟く。
霧の中で三人は連携し、ナニカの猛攻をかわしながら弱点を狙い続けた。
やがて、ナニカの動きが鈍り始めた。リクが叫ぶ。
「今だ、ロビン!爆裂矢、全力で!」
ロビンが放った爆裂矢がナニカの胸を貫き、巨大な生物兵器は地に倒れた。
「はあ……はあ……生きてたか……」アイビーがふらつきながらも、三人で互いを見つめ合った。
毒の楽園の霧は晴れ、先へ進む道が見え始めた。
――生物兵器セラフィム、能力値強化モード。
ロビンの矢が反応する前に、衝撃波のような一撃が地面を抉り、三人は吹き飛ばされた。
「ぐっ……やば、アイビー!」
リクが地を転がりながら手を伸ばすが、アイビーは遠くに吹き飛ばされ、岩陰に隠れるように倒れている。
「……こいつ、倒し方を変えないと、全滅だ……」
リクは歯を食いしばった。
ロビンは口元を拭いながら、低く呟く。
「……これは、生き物じゃない。戦うため、だけのもの……まさに、セラフィム。」
分裂矢が再び放たれるも、今のセラフィムはすべてを読んだかのように避ける。爆裂矢さえ、距離を見極めて躱されてしまう。
「……リク……やばい、当たらねえ」
「大丈夫……大丈夫、まだ俺にはスキルがある!」
リクの目が光る。「解析」スキルを最大限に使い、セラフィムの再生構造と、能力上昇の仕組みを見抜こうとする。
──解析開始
個体名:生物兵器セラフィム
種別:強化型異形生命体
モード:アドレナリン・オーバードライブ
再生核:背部脊椎内蔵コア
弱点:上記コア破壊で機能停止
「見つけた……! 背中の脊椎に再生核がある! そこをやれば……!」
リクの叫びに、ロビンが力強く頷く。
「やる……今度こそ、仕留める……!」
──解析続行中
個体名:生物兵器セラフィム
種族名:強化型異形生命体
全長:2.13m
HP:92350
攻撃力:7810
防御力:6450
敏捷性:799
スキル:自己修復(高速)、能力暴走(起動中)
弱点:脊椎コア(位置特定済)
リク「っ……な……なんだよこれ……っ!!」
目の前のデータが浮かび上がるたびに、リクの顔から血の気が引いていく。
HP九万超え。
攻撃力七千。
そして再生スキル持ち。
「無理だろ……どうやって、勝てってんだよ……」
知らず、リクの声が震えていた。
背中で、砂を踏む音がする。
セラフィムが、にじり寄ってくる。
絶望感が喉を詰まらせ、呼吸が浅くなる。
リク「こんなの……こんなの、俺たちが敵うわけないだろ……!」
だが、そのとき——
吹き飛ばされたはずのアイビーが、岩陰から立ち上がっていた。
ボロボロで、よろけながらも。
「リク……」
「……逃げないで……っ」
小さな声。でも、その声は確かにリクの胸に響いた。
「私は……リクがいるから、ここまでこれたんだよ……」
その言葉に、リクの目が見開かれる。
拳を握りしめ、データを睨みつける。
「そうか……コアだ。コアを壊せば、たとえHPがいくらあっても……!」
希望が、ほんの僅かに光る。
それは今にも掻き消えそうな光——けれど、決してゼロじゃない。
「やるぞ……! ロビン、アイビー……! 俺たちで、絶対にあいつを止める!」
セラフィムの咆哮が、空間に響いた。
第二ラウンド、開戦。