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亡くなった人は星になる。
幼少期にそういう教育をされたことがある人は少なからず居るだろう。
でも、大人になると忘れていく。
ここに命があることの有難さ。亡くなるという悲しみ。
命の重みを、人は軽く見てしまう。
すぐに「死にたい」だとか「消えたい」だとか口にするのは、なんとも皮肉なものだ。
生きたくても生きられない。死にたくても死ねない。
理不尽。不条理。この世はいつだってそうだ。
生まれてこなければよかった。そう考えるのは簡単である。
だが、死ななければよかったと後悔することはできない。
後戻りできないこの人生の中で、人は何を覚えていくのか。
永遠を見ている私には、それがどうしても分からないのだ。
「命を落すって、どういうこと……?」
「亡くなった人は星になる。だから、その命を再び地球に返している」
「それって、生まれ変わりってこと……?」
七海は目を見開いた。
「それって、誰を生まれ変わらせるとか、場所を指定できるとか、そういうのがあるの?」
どこか希望の籠った声で私に問いかけてくる。
私にそんな技術は無い。というか、自然の理的に無理な話だ。
前世の記憶がある人間は確かに存在する。だが、それは記憶と存在がリンクして成り立つ。
私はそのような技術を兼ね備えているわけではない。私が落した星で、そのような現象になったのは、数百億人に一人だろう。
意図的に人間に記憶を宿すのは、私の仕事ではない。生まれたその場所の環境や周りの状況が、記憶を作るのだから。
私はゆっくりと首を横に振る。
「そっか……」
七海はうつむく。感情の起伏が激しい人だ。さっきまで目がキラキラしていたのに。
七海の期待に沿えなかったことに、何とはなしに気持ちの悪い罪悪感を覚えた。
「じゃあ、亡くなった人は全員、天野が地球へ返してるってこと……? そんなの無茶じゃない?」
「全部じゃない。自然に落ちていく星もある。だが、基本的に私が落している」
触れるだけで落ちていくのだから、それほどの労力を必要とはしない。だが、何億もある命を落すのは、精神的な疲労が大きいのだ。
今日はこれだけの命を落したのに、今日はこれだけの人が亡くなって星となる。終わりのないこの作業と永遠に向き合わなければならないことが、今までもこれからもずっと苦痛で仕方がないのだ。
「何度も何度も星を落しても、どこからともなく新しく現れる。亡くなった人の年齢が若ければ若いほど、星は青く鈍く光る。それがどんな経緯で、どんな死に様だったか私には分からないが、いつ何時でも、青い星がここに浮かんでいる。それが事実だ」
こうやって伝えたとて、相手の気持ちが変わるとは言い切れない。
だが、このような具体的な事実を提示しないと、人間は納得しない。
人間の心理は単純で純粋だ。意味不明な状況に陥ったとき、目の前のことを全て事実として受け止めようとするのが人間なのだ。
「大事なことは全部伝えた。だから、この後どうするかはお前次第だ」
そういい放ち、再び指を鳴らす。同時に、七海の姿は私の目の前から消えた。
「………あ……」
大事なことを伝え忘れたことに気づいたのは、それから数分後のことだった。