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翌日の仕事終わり、時間通りに竜之介くんがお店に来てくれて一緒に凜の迎えに行くと、
「あー! おにーちゃんだぁ!!」
竜之介くんの姿を見た凜は大喜びで彼に抱き着いた。
「凜、良い子にしてたか?」
「うん!」
二人のやり取りを微笑ましく思いながら見つめていると、
「あの、八吹さん」
「あ、美結先生、いつも凜がお世話になってます」
凜のクラスを受け持っている藤井 美結先生が声を掛けてきた。
「いえ。凜くんは本当に良い子で思いやりもあって、私の方が助かってますよ。今日はちょっとお話がありまして……」
「何かありました?」
「実は最近、この周辺で不審者の目撃情報が相次いでおりまして、見回りなど強化しているのですが、なかなか改善されなくて……」
「そうなんですか? それは、不安ですね……」
「そうですよね。こちらとしても、子供たちに危険が及ばないよう注意してはいるんですけど、万が一という場合もあります。それに、状況によってはお迎えの時間を早めてもらう事もあるかと思うので、八吹さんのところはお一人だと分かっていはいるんですけど……緊急連絡先にもう一人、どなたか必ず繋がる方の連絡先を教えておいていただきたいんですけど……」
「緊急連絡先……」
普段は私の番号と職場の番号を緊急連絡先としているけれど、忙しい時間帯はどうしても出られないし、お店の番号だと予約の電話もかかってくるしで繋がらない事もあったりする。
かといって、折り合いの悪い実家の両親には頼りたくない。頼ったところで嫌な顔をされるだけだから。
どうしようか迷っていると、
「それじゃあ俺の番号を教えておきますよ。必ず出れるようになってますから」
「えっと失礼ですが、八吹さんとのご関係は……」
凜を抱いた竜之介くんが私たちの元へやって来て自身の番号を教えると言ってくれた。
「あ、その、彼は――」
「俺は亜子さんや凜の遠縁にあたる者です。今は仕事の関係ですぐ近くに住んでいるので、何かと彼女の助けになれると思います」
「そうなんですね。それじゃあこちらの用紙に必要事項の記入をお願いしても宜しいでしょうか?」
「はい」
竜之介くんは機転が利くというか、どんな状況でも本当に頼りになる。
新たな緊急連絡先に彼の番号を追加した私は、これなら何があっても安心だと思いながら保育園を後にした。
「おにーちゃん、こうえんであそぼー!」
「こら凜! 竜之介くんは仕事終わりで疲れてるのよ? 今日はまっすぐお家に帰ります」
「やだぁ! あそぶ!」
「凜、我儘言わないで」
帰り際、いつもは寄り道に関してそこまで我儘を言わない凜も、竜之介くんが一緒でテンションが上がっているのか、いつまでも諦めない。
そんな時、私はついつい怒ってしまうのだけど、
「凜、今日はまっすぐ帰ろう。そんで夕飯食べ終わったら家で一緒に遊ぶってのはどうだ?」
「おうちで遊べるの?」
「ああ、凜が俺の部屋に来ればいいよ。亜子さん、それでいい?」
「え? あ、うん……でも、竜之介くんだってゆっくりしたいでしょ? 悪いよ……」
「俺は構わないよ。別に凜が居てもゆっくり出来るし。俺が凜見てるから、その間に亜子さんは家の事やっちゃいなよ」
竜之介くんは凜を怒る事無く納得させて、更には私にまで気遣いを見せてくれる。
「……ありがとう。あの、それじゃあ、夕飯は家で一緒にどう? これからスーパーに寄るし、竜之介くんのリクエストがあればそれにするから何でも言って」
「え? いいの? 嬉しいな。亜子さんの料理美味いから有難いよ」
「そんな事……無いけど」
「凜、何か食べたい物あるか?」
「うーん…………カレー!」
「カレーか、良いな! それじゃあ亜子さん、カレーをリクエストしてもいい?」
「え? それは全然構わないけど、家のカレーは凜に合わせて甘口なんだけど……大丈夫? 辛いのが良ければ別に作るけど」
「いや、甘いので平気。カレーは甘口でも辛口でも好きだから」
「分かった。それじゃあカレーにするね」
こうして私たちは凜を間に入れて三人手を繋ぎながら、スーパーまでの道のりを楽しく歩いて行った。