エルミナ・ヴァルグリムは門の前に立ったまま、静かにセリオを見つめていた。
その真紅の瞳は、彼を値踏みするように鋭く輝いている。
「セリオ・グラディオン。五度も蘇ったあなたが、どれほどの存在なのか……見極めさせてもらうわ」
彼女の声は柔らかだったが、その奥には揺るぎない意志が感じられた。
セリオは小さくため息をつき、リゼリアの方をちらりと見やる。
「……リゼリア、お前はこのことを知っていたのか?」
「ええ、もちろん。エルミナはずっとお前に興味を持っていたもの」
リゼリアは淡々とした口調で答えたが、その表情には微かに苛立ちが浮かんでいた。
「でも、お前に見極められる筋合いはないわ。セリオはお前のものじゃない」
「ふふっ、まるで私が彼を奪いに来たみたいな言い方ね」
エルミナはくすくすと笑い、優雅に髪をかき上げる。
「安心して、リゼリア。私はただ、次の魔王に相応しいかどうかを確かめたいだけよ」
その言葉に、セリオは少しだけ眉をひそめた。
「次の魔王?」
「ええ。今の魔王は長くはもたない。いずれ新たな王が必要になる。その候補の一人が、あなたというわけ」
「……俺は魔王になるつもりはないんだが」
「本当にそうかしら?」
エルミナは挑むような目を向ける。
「あなたは騎士だった。そして今はアンデッド。だというのに、未だに剣を振るう。あなたが本当に望むものは、静かな余生なのかしら?」
セリオは言葉に詰まる。
確かに、彼はもう死んでいる。生前の使命も、人としての人生も終わったはずだ。
だが、それでも彼は剣を手放さなかった。
「……俺はただ、自分を失いたくないだけだ」
「それがあなたの本心なら、それを証明してみせて?」
エルミナは微笑みながら、一歩前へ進み出る。
次の瞬間、彼女の足元から漆黒の魔力が噴き出した。
「試してあげるわ、セリオ・グラディオン。あなたが本当に『ただの亡霊』なのか、それとも——魔王に相応しい力を持つ者なのかを」
空気が張り詰める。
リゼリアがセリオの袖を引いた。
「セリオ、どうするの? お前は戦うつもり?」
セリオは一度だけリゼリアを見やると、小さく息を吐いた。
「……どうやら、戦うしかなさそうだな」
ゆっくりと剣を抜く。
魔界の暗い森の奥に、静かな風が吹いた。
次の瞬間、戦いが始まる——。
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