テラーノベル
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「……からかわないで」
柚希は低く言い放ち、視線をそらした。
けれど胸の奥では、先ほどの言葉が何度も反響して落ち着かない。
「からかってないって。本気で思っただけ」
海は金網にもたれかかり、悪びれもせずに笑っている。
その飾らない態度が、余計に癪に障った。
「……放っておいて」
突き放すような声にも、彼はどこ吹く風だ。
むしろ興味深そうに、柚希を見つめてくる。
「なぁ瀬戸。いつもひとりだよな。ここ、よく来るの?」
「……別に。誰かと一緒にいる必要ないから」
柚希の即答に、海は一瞬だけ目を丸くする。
そして、ふっと表情をやわらげた。
「そっか。でもさ……俺は、こうやって話してるの、けっこう楽しいけどな」
夕暮れの光に照らされたその笑顔は、眩しすぎて直視できなかった。
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