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「みきくん、あーん♡」
「んん、おいしいよ、ありがとうこずたん!」
列車の中でいちゃいちゃする彼らから発せられる音声を、離れた席で聞きながら美晴は無表情でいた。この音声は仕掛けた盗聴器から拾った音声だ。レシーバーに取りつけた美晴のスマートフォンで録音し、証拠を残していた。
(もっともっと、二人でたくさん証拠を作ってね)
美晴は手に汗を握りながら、両耳にイヤホンを装着して彼らの会話を聞いていた。盗聴器の精度は良く、離れていてもはっきりとした音声が聞こえてくる。彼らの喜びの声、愛情に満ちた囁き、そして笑い声。すべてが証拠となっているとも知らずに――
「こずたん。次の駅で降りて温泉地に行くんだよ。あそこは温泉と絶品の郷土料理が待っているんだ」
「うーん、そうなの? やぁ~ん楽しみ♡」
こずえは甘えた声で幹雄にすり寄っている。声しか聞こえないが、その雰囲気でおおよその内容がわかる。
(人から奪ったチケットで行く不倫旅行はさぞ楽しいでしょうね)
列車は次の駅に近づくにつれて速度を落とし始めた。彼らが降りる駅だ。
美晴は登山帽をかぶってリュックを背負い、山登りに最適な恰好をしている。普段とは装いが違っているので、脳内に花が咲き乱れている彼らに見つかることはないだろう。しかし油断はせずに帽子を目深く被り、慎重に行動した。見失っては元も子もない。出口に向かう彼らの背中を美晴は遠くから撮影した。
撮影後に素早く駅を出て、彼らより先に旅館へ向かった。寄り道をするかもしれないが、どこへ行くか分からないため尾行はリスキーだ。旅館前で待っている方が確実に証拠写真や映像を撮れる。
本日の目的地は景色の良い温泉旅館だった。本当だったらなにも考えずに景色を楽しみ、うまい郷土料理に舌鼓を打ちながら温泉でも楽しみたいところだが、そうはいかない。今日は二人の様子を撮影するために来たのだ。
先にチェックインを済ませ、彼らが来るのを待った。
――…で……
――だよ…
――きくん、そろそろ着くのかな?
――早くこずたんと♡
――もう♡ みきくんのエッチ♡
ふざけた音声が聞こえるようになってきた。いよいよ二人が到着する!
旅館の隅に隠れてシャッターチャンスを狙う美晴。イチャイチャしながらタクシーを降りたのは、幹雄とこずえだ!
(来たっ!!)
仲良く腕を組みながら旅館に入るところをうまく撮影できた。
フロントへ直行した二人は、仲睦まじい様子を見せながら受付をしている。撮影できる限り録画して証拠を取り、一呼吸置いてから見つからないように部屋に向かった。
『あぁん♡ みきくんたら早いよぉ』
『うんもぉっ♡ こずたん♡ こずたん♡ おっぱい触りたかったぁぁ~』
バブバブ言いながら幹雄がこずえの胸をまさぐる音や、派手な音を立てて胸先を吸う音がレシーバーを通して聞こえた。
(ほんっっっと気持ち悪いっ!!!!)
赤ちゃんがやるならとても可愛い行為でも、あんな大人がやるとなればその趣味の人にしか理解できない領域だ。
大興奮してこずえにむしゃぶりつく変態夫の音声をしっかりと録音し、アプリに連絡をいれた。
――無事旅館に着きました。いろいろな証拠が撮れています。
早速二人が列車に乗り込むシーンや旅館に到着した動画をアプリに送った。
美晴のスマホにアプリからの返信がすぐに届く。