「好きだよ」
何のムードもなく、そういわれた。
「好きだよ、真希」
サラサラな白髪を風に揺らして、私の担任-五条悟は言った。なるほど、頭が真っ白になるとはこういうことか。
「好き」
それしか言わない悟。
「どう思う?」
ねえ真希?って試すようにこちらを向く顔は、包帯もサングラスもしていない。その青い瞳に吸い込まれそうになる。
「わ、たしは・・・」
言いかけた瞬間、ごつごつした手で口をふさがれた。
「やっぱり返事はいらないかな」
そういって悟は私に背を向けて歩いて行った。相変わらず気まぐれな奴だ。 その日、私は余計なことをぐるぐる考えてしまって夜はほとんど一睡もできなかった。そんな日に限って座学のみ。体術があれは少しは目が覚めるはずだ。
「真希、今日眠そうだな」
「うっせーよ」
「ま、座学は眠くなるわな~」
また棘と憂太と雑談を始めたパンダたちを横目に見つつ、私の目はずっと悟に向いている。苛立っているわけではなく、ただ昨日のことが忘れられないだけ。昨日悟が私に告白したとか、そこまで私が嫌だと思ってないこととか。考え始めたら止まらなかっただけ。
「真希、見て見て」
悟がポケットをあさって私に見せてくる。某ドーナツ店の半額チケット。
「これ。パンダと行くのもあれでしょ?」
「棘がいるだろ」
「男2人で行くぅ?」
語尾をあからさまに伸ばして、口角を挙げたままチケットをひらひらと振る。
「っていうのは口実で。どう?僕とデートしてみない?」
まさに売り言葉に買い言葉だ。
「もしかして昨日のことで意識しちゃってる~?真希ったら乙女だな~」
とかなんとか。そんなこと言わなくたってよかっただろうに。まあ乗ってしまった私も私だが。しかし意識していないといえばうそになる。
「別に今日じゃなくてもよかったんじゃねえの?」
「期間が今日までなの」
「つーかまじでなんで私を誘ったんだよ」
「意外と鈍いんだね」
「・・・っ」
唇を人差し指でなぞられた。こいつは教師の悟でも何でもない。男だ。
「そういうのは聞くもんじゃないのさ」
本当にずるい奴だと思う。大人の余裕とか、年齢の差を見せつけて。年はどんな経験を積んでも、絶対に埋められないものだから。
「ほら、ついたよ。店で食べてく?」
「いや、パンダたちのも買うだろ。高専帰ってから食う」
「僕と二人分じゃ駄目?」
「・・・分かったよ」
「真希ってそれが好きなの?」
なんだっけ、オールドファッション?という悟。
「わりいかよ」
「悪くないけどさ、もっと味の濃い奴選ぶのかと思ってた」
「あっそ」
「ねえ、一口上げるから一口ちょうだい」
「は?やだよ」
「デートなんだから」
適当なこと言いやがって。大体デートってなんだよ。私は納得してねーからな。そう言ってやりたいけど、私のドーナツを持った手に悟の手を重ねて固定されていて、悔しいことに意識してしまっている自分もいる。
「ん、おいしい。はい、真希も食べて」
「これマフィン系じゃん」
「大丈夫大丈夫。好きなとこ食べていーよ」
悟の胡散臭いような笑顔が気に食わなくて、思いっきりかぶりつく。おー豪快、なんて声は無視してやった。
高専に帰ってパンダたちにどこ行ってたんだー、とか聞かれても絶対に『デート』なんて答えてやるもんか。
そう決意して、私は隣に悟を連れて、悟は隣に私を連れて高専に帰った。
この関係に名前なんてない。だって、返事はいらないのだから。
stay tuned.
コメント
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五真希大好きです!投稿が頻繁ですごくありがたいです‼これからも応援してます