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この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません
深澤→「」
岩本→『』
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岩本side
最愛の人が事故に遭った
『…はぁ、っは、…頼むッ…頼む、から、無事でいてくれ…』
仕事終わりにスタッフから連絡が入った。”深澤さんが事故に遭いました。来られそうなら今すぐ来てください”と。軽トラと接触して頭を強打したと医者から説明されたみたいでスタッフもひどく動揺していた。タクシーを捕まえて教えて貰った病院の前までつけてもらう。幸い人は少なかったから、はやる気持ちを抑えきれずそこからダッシュで駆け込んだ。
病院について、ふっかの名前を言って会えるか聞いたら術後すぐだから今日は面会はダメだと言われた。手術は成功しました、と言われたけれどそれでも心配で仕方がなくて
大事な恋人だから。彼を失うなんて考えられなかったから
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目を覚ましたと言う連絡が入って、やっと面会の許可が降りた。大人数で行くとストレスになるだろうから、と言う理由で俺だけがまずお邪魔することになった。久しぶりに顔を合わせて話ができる、帰ってくる場所は作ってあるからと言うことを伝えられる。そう思っていたけれど、現実はそう甘くはなかった
「え、あの、は、初めまして…?」
どこか不自然な笑みを浮かべる彼は、俺の事を全く知らない人のように扱った。正直なにが起こっているかわからなくて、また俺の事を忘れているだなんて思いたくもなくて、でも一番は彼を傷つけたくなくて。初めまして、のフリをした
その後も彼は俺の事もメンバーのことも思い出せないようで、家族の話はよく出てくるけれど俺らの話は全く出なかった。同期の阿部ちゃんの話でさえしなかった。その事実が、本当に忘れてしまっていることの裏付けになっていて寂しかった。もちろん、お前もアイドルやってるんだよなんて言える筈もなかった
「岩本さん」
もう照と呼んでくれないのがなんだか不思議だった。今まで散々夫婦だのなんだのって言われて、2年前に俺が告白して付き合って。寝起きの甘えたい時、俺が靴下裏返して洗濯機に入れちゃったのを怒ってる時、クレーンゲームででかいぬいぐるみが取れた時、時計をプレゼントして嬉しそうに声を上げた時、…深夜に二人きりで愛し合っている時、どんなときも色んな声で、色んな表情で”照”って呼んでくれてたのに。岩本さん、って、他人行儀すぎんだろ。家に帰って思い返す度に自嘲の笑みが浮かんできて、自分の意思とは関係なく目の前がぐにゃりと歪むこともあった
彼が意識を取り戻してから一週間、ふっかは段々俺にも慣れてきた頃で今日もフツーに会話をしようと思って病室へと足を運んだ。ただ、ふっかと話したかっただけなのに。”ふっかと話す”のは俺の事を思い出すとか、Snow Manに今すぐに戻ってくるとか、そんな難しいことじゃない筈なのに
「え、ぁ、あの…どなたですか、?」
もう、耐えきれなかった。本人の前では絶対に見せまいと思っていた悲しみが、雫となって溢れてしまった。初対面の人…ましてやこんな大男が急に目の前で泣き出すとか恐怖でしかねえだろ。だから俺は嘘をついた、また知らないフリ…今度は間違えたフリをした
『あー…、っと、部屋、間違えちゃったみたいです笑』
「え、あぁそうですか、わら」
『…すみません、笑』
「…だ、大丈夫ですか、?」
気付かれるつもりはなかったのになぁ。すぐ顔を背けたのに彼はすでに俺の異変に気付いていて。自分がどんな状態であろうと、知らない人にもこうやって手を差しのべられるのがふっかのいいところだ。こういうところが、今も昔も変わらず好きで、でもそれはもう彼には伝えられない
「あの、俺でよかったら、話聞きましょうか、?」
『…え、?』
「あ、いやあの、俺がただ暇してるだけなんで!初対面の人間に身の上話とか普通しにくいd 」
『いや』
「え?」
『話、ちょっとだけ聞いて貰ってもいいすか?』
その後は”俺の大切な人”が、今入院してて大変な病気を患っていると言うことをかいつまんで話した。自分の事だなんて夢にも思っていないんだろう
「うぇ~岩本くんも大変だなぁ、」
『そうなんですよ、なんかその…その子のことを困惑させたくないから言えない、し一回覚えてもまた忘れちゃうかもしれない』
「まー…そうだな、うん。…あ、でもさ、俺その子喜んでると思うよ?」
『え?なんで?』
「だってそんなに大切に想って貰えてんだもん。俺だったらくっっっそ嬉しいね」
『…ふは、そっか、』
うらやましー!とか言って笑う彼は眩しかった。昨日買ってきた向日葵みたいだ
「またその子元気んなったら教えてよ」
『あ、はい』
「っしゃ!んでたまには顔見せに来てくんね、… 俺ずっと一人で暇だからさ」
彼がそう言ったから、全然たまにはじゃないけど何回も何回も会いに行った。”おい大事なやついんじゃ無かったの?俺んとこばっか来て大丈夫なのかよ、わら” なんて呆れたように笑われたときもあったけれど、それでもよかった。俺の事をもう二度と忘れられないように、少しでも俺と言う存在を彼の生活に落とし込めるように
それでも彼は、もう1度記憶を失った
3回目の”初めまして”でもう俺の心は限界に達していた。けれど、俺がどれだけその現実に絶望しようと時間は過ぎていくし、俺はふっかを諦めたくなかったから毎日しつこく会いに行った。これ以上彼の記憶から消されるのは御免だったから、今度こそ絶対に忘れられないように
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「ねぇいわもっさん、俺明日退院すんだ」
傷もよくなってきてやっと退院できるらしい。事故に遭ってから一ヶ月が経とうとしているときの事だった
「そんでね、俺からまたお願いあるんだけど聞いてくれる?」