――時刻は23時。
テーブルの食事は食べ尽くされ、酒の瓶が並ぶ。
 トピオや音鳴、刃弐は酒に弱く、ソファに倒れ込んで眠ってしまった。
レダーは刃弐を、紫水はトピオを、JDは音鳴を抱き上げ、それぞれ2階の部屋へ運んでいく。
 リビングに残ったのは、ジョアとケインの二人だけだった。
 ジョアは落ち着かない気持ちを誤魔化すように、グラスを口に運ぶ。
だがその手を、ケインが掴んだ。
 「飲みすぎですよ」
 掴まれた腕が熱くて、ジョアの頬はさらに赤く染まる。
飲みすぎなのか、照れなのか、自分でも分からなかった。
 2日前、決意は固めたはずだった。
――でも、いざ本人を目の前にしたら、どうすればいいのか分からない。
 ケインは掴んだ手を離さない。
ジョアの頭の中は疑問符でいっぱいになる。
 『あの、せんぱい?』
 するとケインは、落ち着いた声で言った。
 「ジョアさん、今から別のアジト行きませんか?」
 『……え?』
 ぽかんとするジョアを見て、ケインは少し言い直す。
 「別の場所で…二人きりになりたいんですけど」
 その言葉に、ジョアの顔はさらに真っ赤になり、しばらく迷ったあと、小さく頷いた。
 レダーたちが2階から降りてきた。
レダーが「…あれ?ケインたちいねーな」とテーブルの上を見ると、そこには、
《明日の朝戻ります》と書かれた紙が置いてあった。
 その頃、ケインとジョアはバイクに乗り、夜風を切って走っていた。向かう先は、まだ誰にも知られていない別のアジト。到着すると、ジョアは周囲を見回し『あれ、こんなとこあったっけ?』と首を傾げた。
 ケインが「新しく買ったんです。まだ誰にも教えてないんですよ」と静かに答える。
 『俺が一番最初でいいんですか?』
 「ジョアさん以外に教えるつもりありません」
 中に入ると、こじんまりとした1LDKの部屋だった。ケインは冷蔵庫から水を出し、コップに注いでソファに座るジョアに差し出す。
 「ジョアさん、さっきかなりお酒飲んでましたよね?水を飲んでください」
 『あ、はい…』
 ジョアはコップを受け取り、口をつけながら酔いを覚まそうとする。そして、少し間を置き、視線を落としながら『ケインせんぱい、あの…』と切り出した。
 ケインが隣に座り、顔を向ける。
「どうしました?」
 ジョアはためらいながらも、意を決したように 問いかける。
 『あの…向こうの街で彼女ができたって、本当ですか…?』
 ケインの目が驚きに揺れる。
 「……どうしてそう思ったんですか?」
 真剣な声に、ジョアは小さく身を縮めながら
 『いろんな人から、ケイン先輩が女の人と歩いてるところを何回も見たって、聞いたんです…』と打ち明ける。
 ケインは小さくため息をついた。 「そういうことですか…」
 「誤解させてすみません。全部話します」
 ケインの声は落ち着いていた。向こうの街に行っていた理由は、868のボス・成瀬夕コを探すため。そして、一緒に歩いていた女性は、その成瀬夕コ本人だった。
 「店長には伝えて行ったんですが…他の人には伏せていました」
 『……お、俺…すっごい恥ずかしい勘違いしてました…』
 ジョアは顔を真っ赤にして、両手で覆った。その姿に、ケインはふっと笑い「妬いてくれたんですか?」と問いかける。
 『……だって、好きですもん』
 小さな声でデレたジョアに、ケインはそっとジョアの頬を触った。
 「一年も待たせてすいません。……私も好きですよ」
 二人は自然と笑い合い、空気が和らいだ。
やがてジョアは、先輩がいない間の一年を語り始める。
 『JDと2人ユニオンを成功させたり、会長が空き巣で800万稼いだり…色々ありましたよ』
 「そんなことがあったんですか」とケインは笑う。
 『んーあと…あ、そういえば俺、一時期自暴自棄になってたときあったんすよね』
 「自暴自棄?」
 『はい。先輩に彼女できたかもって聞いて…俺、信じていいか分からなくなっちゃって。嫉妬もしちゃって…で、痛みで忘れようと思ったら、背中に一生残る傷作っちゃいました!笑』
 急に場が静まり返る。
ジョアは心の中で(あ、あれ…軽く言ったけど、やばい空気になった?)と焦る。ちらりとケインの顔を見ると、彼は怒りを堪えるように黙っていた。
 「……ジョアさん、脱いでください」
 『へっ?!ぬ、ぬ…??』
 「傷を見せてください」
 『あ、ああ…傷、ね…』
 ジョアは照れながらも上着を脱ぎ、背中を見せた。傷跡が淡く光るように浮かんでいる。
 (ちょっと恥ずかしいな、これ…)と心の中で呟いたその瞬間、背中に温もりが触れた。ケインの手が優しく撫で、そして唇がそっと傷に触れる。
 『……っ!け、ケイン先輩??』
ケインは低い声で「……私のせいです」と呟いた。
 『ケイン先輩のせいじゃないです!俺が信じられなかったから…自業自得なんです』
 「いえ、私の責任です。……だって、一年前のあの日から、貴方はもう私のものですから」
 その言葉にジョアの胸が高鳴る。
ケインはジョアを正面に向かせ、顎をそっと持ち上げる。
 「私に、責任とらせてください…」
 ジョアは息を呑みながらも、それを受け入れた。
二人の距離がゆっくりと縮まり、唇が触れ合う。
コメント
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好きすぎる!あぁありがとうございます😭