テラーノベル
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高級婦人のマリアーダイアは、愛猫であるシャム猫のプリテオを狂信的に溺愛していた。
「おーほほほ! さあ、我が家の至宝プリテオ、朝のご挨拶の手を挙げておくいやし!」
大豪邸のテラス。純白のシルククッションの上で、プリテオは優雅に右前足を上げた。ブルーの瞳をウルウルと輝かせ、最も可愛らしい声で鳴いてみせる。
「みゃあ〜ん(マリアーダイア様、今日も世界一お美しいですね)」
マリアーダイアは
「なんて愛らしいの!」
と悶絶しているが、プリテオの脳内は極めて冷徹だった。
(……フン、香水臭くて声のデカいババアめ。私はお前が大嫌いだ。だが、お前の総資産と、そこから生み出される最高級の冷暖房システム、そしてツバメの巣入りキャットフードは激しく愛している。だから私は、完璧な『大好きのフリ』を演じるのだ!)
プリテオは、私利私欲のために魂を売った、プロのビジネス大好きキャットであった。その時、テラスの塀の上に、一匹の野良の三毛猫(名前はない)が飛び乗ってきた。その口には、近所の魚屋から盗んできたばかりのイワシの頭がくわえられている。
「おい、そこ退けお坊ちゃん! 後ろから狂暴なチワワが追ってきてるんだよ!」
「何だと? 汚らわしい野良め、我が営業スマイルの邪魔をするな!」
逃げる三毛猫と、完璧なポーズを崩されたくないプリテオ。二匹はパニックになり、テラスのキャットタワーの最上階で、正面からドゴォン!!!と激しく衝突した。火花が散り、世界がぐにゃりと歪む。
「……にゃ、にゃんと凄まじい衝撃」
先に目を覚ましたのは、三毛猫の体(中身はプリテオ)だった。自分の前足を見ると、泥まみれの短い三毛の毛。生ゴミと磯の香りが鼻を突く。
「な、なんだこれは! 私の美しい純白の毛並みが、こんな薄汚い斑模様に……!?」
一方、プリテオの体(中身は三毛猫)も目を覚ました。スラリとした長い脚に、首には本物のダイヤの首輪。
「……あれ? 体が軽いぞ? っていうか、なんか首の周りがチカチカする……うおっ、本物の宝石じゃねえかこれ!」
二匹は、目の前にある姿見の鏡を見て、同時に叫んだ。
「「中身が入れ替わっているーーー!?」」
しかし、混乱する暇はなかった。
「プリテオ〜〜〜!」
とマリアーダイアの黄色い悲鳴が近づいてくる。
「しまった、マリアーダイアだ!」
と焦ったのは三毛猫の体(中身・プリテオ)だ。(いつものように『大好きのフリ』をして、懐に飛び込まねば!)プリテオ(中身)は泥だらけの体であることも忘れ、長年培った「プロの媚びテクニック」を発動した。尻尾をピンと立て、ウルウルした瞳でマリアーダイアを見上げ、喉を鳴らす。
「みゃ〜〜〜ん(マリアーダイア様ぁ!)」
しかし、外見はただのふてぶてしい野良の三毛猫である。
「いやだわ! この泥棒猫、私に色目を使って這い上がろうとしてるの!? ずうずうしい、あっちへ行きなさい!」
マリアーダイアはブランド物の高級ハエ叩きを振り回し、プリテオ(中身)を庭の隅へと叩き出した。
「な、何だと……!? 私の完璧な営業スマイルが通じないだと……!?」
一方、プリテオの体(中身・三毛猫)の前には、マリアーダイアが両手を広げて迫っていた。
「あぁ、私の可愛いプリテオ! 怖かったわよねぇ!」
三毛猫(中身)は、めんどくさそうに顔をしかめた。野良猫に「おべっか」の文字はない。
「フシャーッ!!!ミャアアアアアアアア!(うぜえババア、寄るな! 離せ!)」
プリテオの美しい顔を台無しにするほどの般若顔で威嚇し、マリアーダイアのファンデーション厚めの頬を、容赦なく肉球でペシィィィン!!!と引っ叩いた。静まり返るテラス。プリテオ(中身)は
「終わった、即刻保健所行きだ……」
と確信した。しかし。
「ぶ、ぶったわね!?……でも、素晴らしいわ! 今日のプリテオは刺激的! これぞ野生のエルメス、反抗期のご褒美よ!」
マリアーダイアは、なぜか大喜びで悶絶している。庭の植え込みからその様子を見ていたプリテオ(中身)は、愕然とした。
(バカな……! 私が毎日、吐き気を堪えながら演じていた『大好きのフリ』は何だったのだ!? あんな失礼な態度が正解だったというのか!?)
完璧なビジネスキャットとしてのプライドを粉々に砕かれたプリテオ(中身)と、大嫌いなマリアーダイアから謎の熱烈なアプローチを受け続ける三毛猫(中身)。こうして、外見はセレブなのに中身はジャンクフードを欲する「偽プリテオ」と、外見は泥だらけなのに気品溢れるお辞儀をする「偽三毛猫」が誕生した。二匹の、ねじれた新生活が本格的に幕を開けるのであった。
コメント
3件
おけおけ 書いたる
「第1話 入れ替わり」読み終えたよ〜!🥀 もうね、冒頭から声出して笑っちゃった(笑)「プロのビジネス大好きキャット」とか「完璧な『大好きのフリ』」とか、プリテオの冷徹な内面と外面のギャップが最高すぎる😂 で、入れ替わった後の展開がまた秀逸! 全力の媚びテクが通じず叩き出されるプリテオと、本気の威嚇が「野生のエルメス」扱いされる三毛猫の対比がもう…設定の妙だなって思いました🤍 しかも「大嫌いなババアから謎の熱烈アプローチ」って一文だけで続きが気になりすぎる…! このねじれた関係性、この先どう転ぶのかすごく楽しみです。続き待ってます〜!
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