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『来週の土曜に、高塚さんが挨拶に来るから、昼食は豪華にしてね』
美香が電話で、高塚の訪問と食事の準備をしろと連絡してきた。
「何故、実家じゃなくてウチにくるの?それにあなたの未来の旦那が食べにくるなら自分で作りなさいよ」
光一は、美香が結婚したいと思っている相手のことを知らないので、仕事部屋にいる光一に聞こえないように声をひそめる。
『今からそっちに行くから待ってなさいよ』
美香はガチャンと音を立てて電話を切った。
美香がやってくるのを待つ。
ガチャ
合鍵を使ってドアを開けて、美香が家の中に入ってくる。
「私が金持ちと結婚するのが気に入らないのね」
「あの人が部屋で仕事してるから、あまりうるさくしないで」
「っ」
美香は光一に知られたくないようで、両手で口を押さえる。
「そこまでしなくてもいいわよ。休憩取るように呼んでこようか?」
「仕事中なんだから、いいわよ。それより美香の結婚相手が家に来るんだから、お姉ちゃんが料理を作るのは当たり前でしょ」
美香は何故、当たり前の理屈が分からないのかと、自分の正義を主張してくる。
「美香、家族の家に遊びに来るとか、挨拶に来る時は、結婚相手が料理を振る舞うものよ」
「私が作ったって言えばいいじゃない」
「結婚して、あの時の料理を作ってくれって言われたら?言われなくったって、毎日の食事でバレるわよ」
「じゃあ、どうする気よ」
「結婚したら料理はどうする気なの?」
「ケータリングを頼んで皿に盛り付けるからいいわよ。お姉ちゃんって本当に使えないわよね。何の為に生きてるんだか」
「┅┅」
話しにならない。
清香は、光一と美香の浮気を知ってから、2人を一歩下がった距離から見ている。
そのせいか、2人が殺したくなるレベルのクズだと言うことが分かる。
「そうだ、ケータリング頼んで、お姉ちゃんは料理を作らなくてすむんだから、お金払ってよ」
「美香は高い店のケータリング頼む気でしょ。嫌よ」
「そんなことしないわよ。ケータリングくらいお金払ってくれてもいいじゃない」
美香は思い通りにならないと、イライラして声をあらげ始める。
「時間だけ決めてくれたら、私が適正価格で頼んで払ってあげるわ」
私に頼んだこと後悔しないといいけど。
◇◆◇
翌週の土曜日
「ケータリング頼んだんでしょ?何で来ないのよ。お皿に移し変える時間がなくなっちゃうじゃない」
昼前になっても届かないケータリングに、美香はイライラして、何度もソファから立ち上がる。
「レシートにも十一時って書いてあるのに、おかしいわね」
とぼけているが、実は十一時指定で注文した後に、スタッフに賄賂を渡して昼過ぎに届けるように裏工作済みなのだ。
ピンポーン
「ケータリングが来たわ」
美香は大急ぎで玄関に向かいドアを開けると同時に怒鳴り付ける。
「遅いじゃないのよ」
「早く来たつもりだったんだけど、遅かったかな?」
美香が遅れてきたケータリングだと思い怒鳴り付けた相手は、なんと早くやってきた高塚だった。
「┅┅」
震える手が、ドアを明けたまま固まっている。
「高塚さんがいらしたの?」
清香は玄関に出て、高塚を出迎える。
「はじめまして、秋山です。お会いできるのを楽しみにしておりました」
清香は高塚と始めて会うフリをして、高塚の為に玄関にスリッパを揃えて出す。
「はじめまして、高塚です。これはデザートに食べてもらおうと買ってきたケーキです」
水色と白のストライプのシャツを着ている高塚は前髪を下ろしているせいか、先日会った時よりも若く学生のように見える。
「まあ、赤坂ホテルのケーキ。後でお出ししますね。ちょっと美香、早く中にご案内して」
「ああ、ええ、どうぞ中に入って」
「お邪魔します」
一通りの挨拶を終えて、高塚が部屋の中に案内された。
ピンポーン
「はーい」
玄関のドアを開けると、ケータリングの食事が運ばれてきた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いいえ、ありがとうございます」
清香はケータリングの料理を受け取り、部屋に戻ると美香が冷たい飲み物を出していた。
「美香、お皿もお出しして」
「はーい」
「ありがとう」
台所から戻った美香が、お盆に皿とハシを持ってきた。
「料理がきたからお皿に盛りましょ」
「今日はケータリングを注文したんです」
「美味しそうですね。ケータリングなら味も間違いなさそうだし」
「そうでしょ。あたしも下手な料理を出すより、いいと思ったのよ」
美香は、高塚の嫌味にも気が付かずに、話しが合うと喜んでいる。
「主人を呼んできますね」
清香は立ち上がり、光一の仕事部屋の扉を開ける。
「あなた、高塚さんがいらしてるわよ」
「何だよ、徹夜で仕事して、寝たばかりなのに」
ヨレヨレのスウェット上下に、無精ひげとボサボサの髪をかきながら、リビングに顔を出した。
「どちらの高塚さん?」
「美香さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いております高塚と申します」
高塚はソファから立って、初対面の光一に挨拶をする。
「結婚?」
「お義兄さん、まず座って」
高塚の隣に座っていた美香が、腕を伸ばして光一のスウェットの脇を引っ張った瞬間、光一が美香の手を掴む。
「ちょっと来い」
力強い手が、美香の手を掴んだまま、扉を開いて外に連れ出した。
◇◆◇
「俺と言う者がありながら、結婚ってどういうつもりだ?」
「お義兄さんにはお姉ちゃんがいるじゃない」
「だったら、あいつとは離婚してお前と結婚する」
「あたしはお姉ちゃんの妹だよ。お義兄さんと結婚出来るわけないじゃない」
ドアの外に付けておいた小型の監視カメラから送られてくる映像と音声を、清香と高塚はスマホの画面から覗いていた。
「俺は、お前がいないとダメなんだ」
「高塚さんは高塚物産の三代目でお金持ちなんだよ。もしも死んだら、財産は美香とお義兄さん2人の物だよ」