テラーノベル
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ッ……! はぁ……はぁ……
シャベルを握り締め、土へ突き立てる。
重たい土を掬い上げ、脇へ放り投げる。
また、土を刺す。
ザッ――
ザッ――
ザッ――
腕が軋む。
手のひらは擦り切れ、握るたびに痛む。
やめたら、胸の奥で燻り続ける黒い何かが、自分を飲み込んでしまう気がした。
犯した罪を隠すため。
罪から目を逸らすため。
乱れる呼吸。
胸を締め付ける後悔。
消えない恐怖。
そして、その奥底にある、言葉にできないほど歪んだ安堵。
そんな自分に笑ってしまいそうになる。
ザッ――
ザッ――
ザッ――
静かな森に、シャベルの音だけが響いていた。
-–
……俺はいじめられていた。
殴られた。
蹴られた。
金を盗まれた。
物を壊された。
命令され、笑われ、人として扱われなかった。
どこにでもあるだろう。
ありふれた、いじめ。
誰も気にしなかった。
きっと皆、気付いていた。
クラスメイトも。
先生も。
廊下ですれ違う奴らも。
それでも、誰一人助けてはくれなかった。
責める気はない。
怖いんだろ。
次は自分が狙われるかもしれない。
関われば面倒になるかもしれない。
そんな気持ちは分かる。
人間なんだから。
結局、この世で一番大切なのは自分だ。
友達も。
家族も。
恋人も。
最後には、自分を守るため。
それが人間だ。
だから否定はしない。
……でも。
事件が起きた後になって、決まって現れる。
『僕なら守った。』
『私なら助けた。』
『絶対に止めていた。』
……笑わせるな。
その言葉を口にする資格がお前らにあるのか。
誓えるか。
人を一度も傷つけたことがないと。
助けを求める声を、一度も見捨てたことがないと。
いじめを見たら、必ず止められると。
全部、胸を張って誓えるのか。
誓えたなら、お前は聖人だ。
そんな奴、いるわけねぇだろ。
俺は散々見てきた。
人間の汚ぇところを。
否定するな。
知らねぇくせに。
たった一人でよかった。
「大丈夫か。」
その一言を掛けてくれる人が、一人だけでもいてくれたら。
「助ける。」
そう言ってくれる人が、一人だけでもいてくれたら。
俺は、こんな場所にはいなかったのかもしれない。
でも、誰も来なかった。
俺が何度助けを求めても。
何度泣いても。
何度叫んでも。
誰も。
誰一人。
振り向かなかった。
なのに、今さら俺だけが悪いのか。
「やりすぎだ。」
「かわいそう。」
「命を奪うなんて最低だ。」
俺が何をされたかも知らないくせに。
俺がどれだけ壊されたかも知らないくせに。
人を哀れむ自分が好きなだけだろ。
正義を語る自分に酔ってるだけだろ。
人の不幸を、自分を綺麗に見せるための道具にするな。
……俺は捕まるだろう。
裁かれるだろう。
当然だ。
人を殺した。
それだけは、どんな理由があっても消えない。
でも――
俺が壊れていく姿を見ていたお前らは、本当に何も悪くなかったのか。
お前らが全部悪いとは言わない、
だが、少なくともお前らにも罪はある。
そうだろう?
ザッ……
シャベルを静かに地面へ置く。
掘り終えた穴を見つめる。
深く息を吐き、小さく笑った。
「あぁ……やっと終われる。」
その笑みが安堵だったのか。
絶望だったのか。
もう、自分にも分からない。
暗い森の奥。
風が木々を揺らす。
誰もいない森に、一人の笑い声だけが静かに響き続けていた。
今回もチャッピーに誤字等を修整してもらってます
過去作も読んでくださると嬉しいです
もな
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恐福。
21
#微ホラー・ミステリー
恐福。
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コメント
1件
読み終えました。冒頭の「ザッ――」というシャベルの音だけで、もう胸が締め付けられるようでした……。静かな森に一人、誰かに向けてではなく自分のために穴を掘る。その行為の重さが、その後のモノローグを一層深く響かせますね。 「助ける」と言ってくれるたった一人が欲しかったのに、誰も来なかった——その絶望が突き刺さります。「お前らにも罪はある」という言葉に、読者である自分も無意識に見て見ぬふりをしたことはなかったか、考えさせられました。最後の「やっと終われる」の笑い声が、安堵なのか絶望なのか分からないところに、この物語の逃げ場のなさが凝縮されている気がします。重いけれど、確かに心に残る作品でした。