テラーノベル
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ッ……! はぁ……はぁ……
シャベルを握り締め、土へ突き立てる。
重たい土を掬い上げ、脇へ放り投げる。
また、土を刺す。
ザッ――
ザッ――
ザッ――
腕が軋む。
手のひらは擦り切れ、握るたびに痛む。
やめたら、胸の奥で燻り続ける黒い何かが、自分を飲み込んでしまう気がした。
犯した罪を隠すため。
罪から目を逸らすため。
乱れる呼吸。
胸を締め付ける後悔。
消えない恐怖。
そして、その奥底にある、言葉にできないほど歪んだ安堵。
そんな自分に笑ってしまいそうになる。
ザッ――
ザッ――
ザッ――
静かな森に、シャベルの音だけが響いていた。
-–
……俺はいじめられていた。
殴られた。
蹴られた。
金を盗まれた。
物を壊された。
命令され、笑われ、人として扱われなかった。
どこにでもあるだろう。
ありふれた、いじめ。
誰も気にしなかった。
きっと皆、気付いていた。
クラスメイトも。
先生も。
廊下ですれ違う奴らも。
それでも、誰一人助けてはくれなかった。
責める気はない。
怖いんだろ。
次は自分が狙われるかもしれない。
関われば面倒になるかもしれない。
そんな気持ちは分かる。
人間なんだから。
結局、この世で一番大切なのは自分だ。
友達も。
家族も。
#ミステリー
#ドリームコア
言乃 葉名
57
恋人も。
最後には、自分を守るため。
それが人間だ。
だから否定はしない。
……でも。
事件が起きた後になって、決まって現れる。
『僕なら守った。』
『私なら助けた。』
『絶対に止めていた。』
……笑わせるな。
その言葉を口にする資格がお前らにあるのか。
誓えるか。
人を一度も傷つけたことがないと。
助けを求める声を、一度も見捨てたことがないと。
いじめを見たら、必ず止められると。
全部、胸を張って誓えるのか。
誓えたなら、お前は聖人だ。
そんな奴、いるわけねぇだろ。
俺は散々見てきた。
人間の汚ぇところを。
否定するな。
知らねぇくせに。
たった一人でよかった。
「大丈夫か。」
その一言を掛けてくれる人が、一人だけでもいてくれたら。
「助ける。」
そう言ってくれる人が、一人だけでもいてくれたら。
俺は、こんな場所にはいなかったのかもしれない。
でも、誰も来なかった。
俺が何度助けを求めても。
何度泣いても。
何度叫んでも。
誰も。
誰一人。
振り向かなかった。
なのに、今さら俺だけが悪いのか。
「やりすぎだ。」
「かわいそう。」
「命を奪うなんて最低だ。」
俺が何をされたかも知らないくせに。
俺がどれだけ壊されたかも知らないくせに。
人を哀れむ自分が好きなだけだろ。
正義を語る自分に酔ってるだけだろ。
人の不幸を、自分を綺麗に見せるための道具にするな。
……俺は捕まるだろう。
裁かれるだろう。
当然だ。
人を殺した。
それだけは、どんな理由があっても消えない。
でも――
俺が壊れていく姿を見ていたお前らは、本当に何も悪くなかったのか。
お前らが全部悪いとは言わない、
だが、少なくともお前らにも罪はある。
そうだろう?
ザッ……
シャベルを静かに地面へ置く。
掘り終えた穴を見つめる。
深く息を吐き、小さく笑った。
「あぁ……やっと終われる。」
その笑みが安堵だったのか。
絶望だったのか。
もう、自分にも分からない。
暗い森の奥。
風が木々を揺らす。
誰もいない森に、一人の笑い声だけが静かに響き続けていた。
今回もチャッピーに誤字等を修整してもらってます
過去作も読んでくださると嬉しいです
コメント
1件
読み終えました。冒頭の「ザッ――」というシャベルの音だけで、もう胸が締め付けられるようでした……。静かな森に一人、誰かに向けてではなく自分のために穴を掘る。その行為の重さが、その後のモノローグを一層深く響かせますね。 「助ける」と言ってくれるたった一人が欲しかったのに、誰も来なかった——その絶望が突き刺さります。「お前らにも罪はある」という言葉に、読者である自分も無意識に見て見ぬふりをしたことはなかったか、考えさせられました。最後の「やっと終われる」の笑い声が、安堵なのか絶望なのか分からないところに、この物語の逃げ場のなさが凝縮されている気がします。重いけれど、確かに心に残る作品でした。