王都・光の帝国『星十字騎士団』領事大使館・執務室。
そこにはキルゲ・シュタインビルド、黒崎創建、エーゼ・ロワン、アイリスディーナが四人揃っていた。隣にはアーティファクトの暗号解読をしているセシルがいる。
魔力とは別体系の技術である霊圧探索によって、周囲の存在を探知しているので、セシルの護衛の任務も問題ない。
黒崎創建が進行役として、霊子で構成した空中ウィンドウを展開する。
「では、まず数年前から始めた真世界城にならないニ割の世界に対しての調査報告から、キルゲ・シュタインビルド隊長お願いします」
「わかりました。まず基礎知識の共有から初め〼」
『ニ割の世界』
・規模は、現世のアメリカ合衆国全土ほど。
・2割の世界には様々な国家や主教がある。
・魔力をエネルギーとした発展をして、戦闘や生活にも魔法が当たり前に使われている。
・種族も多種多様であるが、それ故に差別や偏見も多い。
・アーティファクトと呼ばれる八割の世界には存在しなかった。そのアイテムが、このニ割の世界に集中して存在している。
・ニ割の世界を支配できないのはこのアーティファクトによる影響だと思われる。
・アーティファクトを集めるためにニ割の世界へ部隊を送るが、しかし砂漠の中から一欠片のダイヤを探し出すような作業のため、部隊そのものが探すのではなく、部隊を分割しそれぞれをリーダーとして現地民を利用した物量作戦に変更。様々な組織を利用してアーティファクトを回収に勤しんでいる。
・現在、光の帝国が保有しているアーティファクトの数は150個。ニ割の世界に存在していると確認が取れているだけでアーティファクトは1200個。更に推定となると……1億5千。
・社会、文明レベルは、光の帝国による介入で一定以内に収まるように調整され、特別な才能を持つ者や、広がると光の帝国にとって危険な技術は回収もしくは破壊、隠蔽するようにしている。
・アンダー・ジャスティスの思われる文明レベルの上昇も、危険レベルと判断され、破壊工作をしている。
「以上です。何か、ご質問はありますか?」
誰も手を挙げない。そして話題は次に行く。
「では次は僕から、この王都を含め、この世界で起こる政治的な話をします」
・光の帝国としてニ割の世界を真世界城として取り込みたい。けれどアーティファクトによって阻まれている。
・アーティファクトは、様々でその地そのものだったり、特殊な種族ではないと使用不可だったり、回収できない場合が多い。その為、現地民を使っているが、忠実な部下ではないので、彼らもそんな大切なアーティファクトを手放さいパターンもある。殺して奪っては効果を失うもの、暴走して危険なものもあるため、慎重にならなければならない。
・ニ割の世界を武力で支配して強引にアーティファクトを回収、拠点に変化させないのはそういう理由がある。
・高度な政治的な取引でアーティファクトを確保していく過程で、邪魔でもあり、しかし有用な駒なのがアンダー・ジャスティスとニャルラトホテプ教団。
・アンダー・ジャスティスはいうまでもなく光の帝国とニャルラトホテプ教団への報復のために力をつけている武力的なテロリスト集団。
・ニャルラトホテプ教団は、外なる神ニャルラトホテプを崇めて復活させるために活動する宗教的なテロリスト集団。
・私達はこの二つの組織にスパイを紛れ込ませ、情報を入手しつつ、各国での活動中を狙い攻撃。危機感を煽りつつも、実利を得て、更に表的にはテロリスト集団への対処として恩を売ることを続けている。
・ニ割の世界の武力を含めた政治的な発言力の掌握はおよそ六割。やはり民族国家や宗教国家は中々懐を開いてくれず厳しい現状がある。
「以上です」
「ありがとうございます。では、最後の議題ですね。これは二人にも直接的に関係する話なので、よく聞くように」
「はい」
「わかりました」
「では、説明を開始します。悪霊について」
一般的に『悪霊』と呼ばれる存在。
その正体は魔力を持った人間の魂魄が、長い年月をかけて怪物化して待った存在。胸に穴が開いて、本能を覆う仮面となり、怪物となる。異世界から光の帝国本土である現世へ流れ込み、虐殺を始めた。
結果、人間の進化の一つとして殲滅者が生まれ、聖王をリーダーとした光の帝国が作られ、世界平和と悪霊という存在そのものを殲滅するために逆侵攻する。
光の帝国の一般兵よりは総じて弱く、1対10の戦力比。更に捕食本能が強いせいかやや頭が残念になりがちとはいえ狡猾な戦術を使う者も結構居るため、場合によっては何人かが犠牲になったり、部隊長クラスが出撃するなど、よほどの実力差がなけれれば殲滅者でも油断ならない存在である。
モンスターと違うのは、人間の魂魄が元になっているため、霊子による攻撃で魂を完全に消滅させなければ、一時的には倒せても別の場所で悪霊は再生する。また仮面が弱点である。
巨大悪霊。
最下級大悪霊。
中級大悪霊。
最上級大悪霊。
と下になればなるほど殺戮能力は増していき、危険である。
最上級大悪霊には星十字騎士団の聖数字持ちでなければ厳しい。
一節には死神と呼ばれる存在がいて、輪廻転生するために活動していたらしいが、死神が起こした大規模な内乱によって世界の楔たる霊王と呼ばれる存在が変化し、聖王を含めた霊子を操る人間が生まれる科学技術と文明レベルが高い現世と、魔力を持つ基礎能力の高い多種多様な姿の生命体が生まれる異世界が生まれた。
「以上です」
「つまり、貴方達でなければ勝てないモンスターって認識で良いのね?」
「はい。アイリスディーナさんはアンダー・ジャスティス時代に直接戦闘経験が、アイリスディーナ様は自身の悪霊化を経験しているはずです」
「あの胸に空いた怪物がそうなのね。確かに魔力の通りが悪くて苦戦したわ。霊子というのは私達には使えないの?」
「不可能だ。数年間研究したが、魔力と反発する性質があり、使用すると内部から爆発する。しかし虚は別だ。悪霊はアイリスディーナ様がすぐに適合して使えたように、魔力を持つ者と相性が良く馴染む」
「逆に私達、現世出身者である殲滅者は悪霊とは極めて相性がとても悪く、聖数字を貰っていないものは触れるだけで汚染される危険性があります」
「なるほどね。怪物化はなんか変な世界で仮面被った自分をぶっ倒したら上手く扱えるようになったけど、もし負けてたらどうなってたの?」
「怪物となって、理性が消え失せ破壊を撒き散らす存在となる。君は、内なる怪物を屈伏させたんだ。流石は噂に聞くアイリスディーナ王女だ」
黒崎創建の言葉に、アイリスディーナは少しだけ怪訝そうな顔をする。
「どういう意味?」
「キルゲ先生から聞いてないか? 君はこの世界を下調べした時に、特記戦力として数えられたんだ」
「特記戦力? どうして? ベアトリクス姉様の方がよっぽど」
「ベアトリクス王女は強いだけだ。けど君は、挫けず、負けず、抗い続ける精神を持っていた。それはもし、偶然虚と出会い、その霊圧に汚染され虚化した際に何もしなくても怪物の力を手に入れる極めて高い精神的強さとも言える『怪物化適合率』があった」
「特記戦力とは単純な強さではなく、未知数ですからね。そういえば黒崎創建君、石田シンジ君はどうしていますか?」
「石田……あいつは護る者です。だから何も伝えてません。現世で悪霊狩りしているでしょう」
「確かにそれが良いでしょうね。シンジくんの性格的に、侵攻する側は彼としては我々と敵対してでも止めることでしょう」
「そういうことです。では、説明も終わったことで解散。アイリスディーナさん、秘書の仕事とライナー・ホワイトとの恋人関係の継続だと思うけど、よろしく頼むよ」
「こ、恋人といっても欺瞞恋人で本心は別だから勘違いしないでよね!」
そう慌てるアイリスディーナに、エーゼ・ロワンが半目で言う。
「欺瞞といえ長く関係を続ければ情が湧いて本気になることも或ると聞きますが、アイリスディーナ様はどうでしょうね?」
「私は! 私を真に認めて、目標を達成する手助けをしてくれたキルゲさんが一番好きなの!」
「さて、その想いはいつまで続くかしら?」
黒崎創建はそんな二人の様子を見て、つぶやく。
「仲悪いんだな、二人は」
「そうですかね? 君と石田くんを見ているようで少し微笑ましいですよ」
「あの様子を見て微笑ましいっておかしくないですか?」
「『僕らは友達だからだ』。あの台詞は痺れましたね」
「キルゲさん!?」
「懐かしいですね、数年前の大喧嘩。いつもいがみ合って、罵り合って、仲が悪いようだった石田シンジ、黒崎創建、ポテサコロッセ、ビスバーの光の帝国を巻き込んだ大乱闘。被害は多かったですが、最終的に全ての遺恨と禍根が解けて、真なる意味で対悪霊、現世の平和に向けて一つに纏まった。とても、とても良いものでした」
キルゲ・シュタインビルドは遠くを見るような目で見る。
黒崎創建は赤面して眼鏡をあげた。
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