学校に行って授業を受けても、帰ってきてデスクに座っても、結局丸一日あのリプライは私の頭の中でぐるぐると回り続けた。
あれ以降、問題が発生した。
私の人生に関わる問題だと言っても過言ではない。
描けないのだ。絵が。
課題や授業の事なら辛うじてできるのに、いざパソコンの前に座って、描画ソフトを開いてペンを握ると…。
描けないのだ。どうしたことだろうか。
デスクに座って途方に暮れた。
私はふと気になって、SNSに捨て垢を作ってそいつのアカウントを見に行った。
そんなもの見なければよかったと後悔することになるのだが、私のモチベーションは奴の一言に全て吸い取られてしまったのだから仕方がない。
やつの呟きはこうだ
【最近絵を投稿していなかった推していた絵師さんの画力が「ん…?」って思ったから、心配で指摘したらブロックされました。とても悲しいです。こんなにも心が狭い人だったなんて…。】
…。
私ってば、こんなにも心が狭い人だってさ。
どっちだそれは。私は絵を描く時間がなかったと言ったじゃないか。美大で描く絵と家に帰ってきてから描く絵じゃあかなり違うんだから、リハビリに一日クオリティを上げて何が悪いのか。
悪いって言うなら、お前の「心配で指摘した」その余計なお世話が悪いのさ。
続くリプライは、そいつを擁護する声が大半だ。誰か一人ぐらい«きっと忙しかったんだと思うよ»という私に対する同情を示してくれてもいいじゃないか。
スマホを叩きつけたくなったが、私はその捨て垢を利用してそのリプ欄に参加した。
そう。その«忙しかったんだと思うよ»を、自分で書いたのだ。
そうかもですね、私にも反省するべき点がありました…と、しんみりするリプライを期待してスマホを閉じた。しかし、返信は待てども待てども来なかった。
不思議じゃないか?
だって、余計なお世話を向けてきた時は1分もかからぬ内に返信を寄越したんだぞ?
5分ほど待った。
カップラーメンなら汁を啜って伸び始めている頃だ。
私は再びスマホを立ち上げてSNSを確認した。
「……は?」
目を疑った。そいつは私の捨て垢をブロックしていた。
結局のところ、皆同じなんだろう。
誰だって自分に都合のいい事を言ってくれる人しか求めていない。特にSNSという場所では。誰かを陥れてでも自分を称え、褒め、慰めて欲しいんだ。
なんだ、あんたも私と同類じゃないか!
ははは……アホらし…
乾いた笑いと自虐にも等しい弱々しい言葉の棘が、ワンルームの壁に吸収されていった。
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