テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#オムニバス
雪
1,184
(☆▽☆)
238
はじめに。
この話は、ここ最近の実話です。
最近、連日娘の部屋に見るからに悪霊が湧いてくる。でも娘の部屋には夫や夫の守護が何重にも結界を張っているから、なんだかおかしい。
黒兎が深夜の二時半頃に必ず足ダンして私を起こすから、連日仕方なく起きるのだ。
黒兎は大体娘の部屋に、片方の耳をギュインと向けている。
眠気に襲われながら娘の寝室を覗く。
夫曰く、初日は真っ黒な背の高い細い女が立っていたと言う。
しかし私には、ひょろい真っ黒な短髪のオッサンに視えた。服も目も(片側が長い)髪も肌も、全て真っ黒。
後にオッサンではなく、片側の髪が長く、片側は焼けて短髪になっている女だと知った。
片方の腕は半分以上千切れて垂れ下がり、喉は焼け爛れて潰れている。
娘の部屋にわざと置いている(娘には視えない)迎撃用の守護が噛み付いていたが、女の方が強かったらしく守護は既にボロボロだった。
まだ起きてた夫に「あれ私でも消せるかな?」と、寝ぼけていて力の調節ができないと困るから聞いてみた。
「できると思うよ」と軽々しく言うが、その間にも黒兎が鋭い足ダンをしている。
迎撃用の守護が再度噛み付いた瞬間、女は地の底から這い出でるような低い声で吠えた。
そこに追撃を加える。手応えが硬いので外守護に降りてくるよう号令をかけた。
夫も加勢してくれたので、その女は数十分で消し終わった。
ほっとして寝たら、今度は三時半にまた足ダンで起こされた。
こちらも眠気に抗って半ギレで周囲環境を霊視すると、次は玄関の外に大勢の白装束の霊が長蛇の列を成している。
気付けば夫は爆睡。流石にあの量を一人で片付けるのは嫌だったので、玄関先で門番をしている守護に頼んで半分対処してもらった。
半分はちゃんと自分で消したので、かなり疲れた。
さて今度こそ寝ようと瞼を閉じると、何やら窓の外から車のドアを勢いよく開閉する音がする。
黒兎が「プゥゥゥ」と(うちは怒ると「プゥ」、機嫌が良いと「ブッブッ」と言う)威嚇している。
携帯で時間を確認すると四時近い。
こんな時間に何しとんねんと半ギレで無理矢理寝ようとするが、十五分程バタンバタンと響き渡り、いい加減にしろ!と窓から怒鳴ろうかと思った瞬間、突然複数の救急車のサイレンが聞こえてきて、家の目の前を通過した。
サイレンが通過した後、ドアの開閉音はピタリと止んだ。本当に意味が分からない。
黒兎も威嚇はやめたが、腑に落ちない顔をしていた。
もう外が明るくなってきたことに更に腹が立ち、目を閉じて寝ようとする。流石にもう何もないだろうと思っていた。
そして五時頃。物凄い大声でゲラゲラ笑う子供達の声で覚醒した。
黒兎も瞬時に反応して、キレッキレの足ダンを始める。
子供達の笑い声が何故かどんどん家の方に近付いてくる。
嫌な予感がして窓から外を覗くと、一見普通の小学生くらいの子供達が目と口をありえない程に大きく開いて、ゲラゲラ笑いながら数人ずつ手を繋いで歩いてくる。
目視で確認できる限り、十人は余裕で超えている。全員同じ表情で近寄ってくる。
明らかに普通の朝の五時の光景ではない。はっきり視えているが、声だけが周囲に反響しておかしな聞こえ方になっている。
子供達は六人ずつ、私の寝室と娘の寝室、それから玄関の前に立ってこちらを見上げてゲラゲラ笑う。それはそれは馬鹿デカい声で。
勘弁してくれと、寝不足で私は力尽きた。笑い声くらいならもう気にせず寝てしまえと、外守護を数人ツリーハウスから引っ張り下ろして私は寝た。僅かな時間を無駄にはできない。
仕事はあるが、ギリギリ八時までは寝るぞ!と意気込んで寝たのに、トドメは七時前に黒兎の足ダンで起こされた。
びたーん!びたーん!とリビングから不思議な音が聞こえる。黒兎はそれに怒っていた。
静かにキレた私はリビングを睨んだ。すると、リビングのテーブルに向かってずぶ濡れの女が、大きく頭を振ってテーブルに髪を叩き付けている姿が視えた。
見開いた女の目は真っ黒で、爛々と輝いている。
全く意味の分からない光景を尻目に、もうええねんと夜通し怪奇現象を目の当たりにした私は疲れてしまって、大した反応もせず冷凍庫から白米を取り出してレンジで解凍した。
これはこれから起きる娘の朝ごはん用だ。
ずぶ濡れの女は、娘が起きると同時にふっと姿を消した。
ふらふらしながら八時まで寝落ち、その日は寝不足からの頭痛を我慢して仕事に行った。
翌日の深夜、もう寝不足で体調も悪く早々に寝たのに、また三時半頃に黒兎の足ダンで起こされた。
限界だったので「ねえ……なんかいる」と夫を起こそうと試みたが、夫も寝不足だったのか「うん、いるねえ!」と元気よく返事してイビキをかいた。……ダメだ起きない。
外は大雨だった。その大雨と共に大勢の死霊が押し寄せてきているのが視えて、(今日こそは寝たかった私は)半狂乱で外守護を呼んだ。
しかし即座に反応して降りてきてくれたのは河童で、私も実際に対応して思ったが、今日の死霊は水が効かない。
河童も悪戦苦闘していてちょっと申し訳なかったので、他の外守護も呼び付けて複数で三十分かけて対処し、最後は気絶する勢いで寝た。
ここ数日夏バテもあって体調があまり良くない。僅かな時間でも睡眠時間は大事だった。
二日間の怪奇現象オンパレードに嫌気がさして、その夜ストレス発散にアマプラで楽しみにしていたホラー映画を観た。
私のストレス発散は本当に怖いホラー映画を見つけることで、今回観た人形に纏わる映画は大当たりだった。
夫も娘も一緒に映画鑑賞をした後、ふと気になっていたことを夫に尋ねた。
「ねえ、うちの結界……特に〇〇(娘)の部屋ってさ、脆くなったりしてる?」
さりげなくそう訊けば、夫は「いや?ガチガチだよ」と言って顔を向けた。
「そういえばこの二日間、やたら〇〇(娘)の部屋から(霊が)湧くよね」
夫もそう勘付いていたらしく、酒のつまみを用意しながら「なんか貰ったり拾ったりした?」と娘に尋ねた。
娘は全く記憶にないらしく、半分怖がりながらも首を振る。
私も何かおかしいと思っていたので、普段は気を遣ってあまり立ち寄らない娘の部屋に入った。
一瞬空気が冷んやりとした。
憑依守護のあさかの目で部屋全体をスキャンする。何処からか大勢のいる気配はするが、姿が視えない。
あさかが「やっぱ物に宿ってるんじゃない?私物を全部確認した方がいいかも」と言うので、特に気配が強い場所を探した。
するとオモチャに隠れる形で、全く知らない赤い鼻緒に黒い下駄を見つけた。
「ーーー何これ!?誰の?私ら買ってないけどこんなの」
そう言って下駄を掴んだ途端、珍しく足から首まで一気にゾワッと鳥肌が立った。
あっ、これ絶対ダメなやつだ!!と瞬時に悟ったが、掴んだ手前落とす訳にもいかない。
触っている間、複数の凄まじい断末魔と笑い声が下駄から聞こえた。
まるで怨恨をそのまま中に宿したような、恐ろしい気配だった。
娘は「それ……わたしが小さい時からあるよ」と言う。
「じゃあ誰に貰った?」
「……叔母ちゃん……だと思う……」
叔母ちゃんというのは、正確には私の叔母だ。娘を可愛がってくれて、よく服はプレゼントしてくれるが下駄は絶対に貰っていない。
貰い物をした時は可愛く映えるように写メを撮って、画像と一緒にお礼をLINEで送るようにしているから、携帯のフォルダに必ず残る。
「本当に?いつ?小さい時って言うけど、貰った物は私全部一度確認してるし、こんなの見たことないよ」
娘が言い淀んだ。「……でも、わたしはこれ……よく遊びで使ってたよ」と自信がなさそうな顔で言う。
「私時々アンタの部屋ちらっと覗くけど、こんなので遊んでるの一度も見たことないよ」
「俺もない。それ本当に叔母さんに貰ったの?」
畳み掛けるように二人から言われて、記憶が曖昧な娘は涙目になった。
素手で掴んでいるとなんかとても嫌なので、夫にずいと差し出すと珍しく「やだよ、俺これ触りたくない」と断られた。
「これ捨てていい?」と一応確認すると、娘は半泣きで頷いた。責められたように感じたからではなく、急に怖くなって泣いたらしい。
私は迷いなく燃えるゴミにぶち込んだ。ぶち込む手前で夫が何やら封じるような仕草をした。
再度娘の部屋に入ると、まだ薄ら気配がある。
「多分何個かあるよ、こんなのが」と直感的に呟いた。
「あと部屋が汚いのも悪い。霊って結界がある部屋ではまともに出入りできないから、汚部屋だと溜まってくんだよ」
よくあるパターンを告げると娘はわっと泣いた。泣きながら「断捨離手伝って」と言う。
「今日はやめな。明日ゆっくりやったらいい」と夫が口を挟む。
「このまま続けても警戒して現物出てこないと思うよ。見落とす方が嫌でしょ」
それは一理ある。
断捨離はいいストレス発散だから、全然手伝うのは良いのだけども、こんなのがあと何個あるのやら。大元のヤバそうな物は、おそらくさっきの下駄で間違いないと思うが……。
頭を抱えて迎えた深夜、突然娘の「ママ!!」と連呼する声に目が覚めた。
大泣きしながら連呼するので何かと思って部屋を覗くと、単に夜中に暑さで目覚めてしまった様子。前夜のことを思い出し恐怖のあまり呼んだらしい。
呆れたが、まあ普通の小学生からしたら怖いのかと思って、仕方なく簡易布団を私の寝室に敷いた。夜中にぶっ続けで大泣きされている方が嫌だった。
安心したのか、娘は泣き疲れもあったらしくて即寝した。
しかし夜中に2回、汗だくになったが自分の部屋に戻って着替えるのが怖いと起こされた。まあ、まだ霊障で起こされるよりマシだ。
ゴミ袋には突っ込んだものの、まだ家の中にあるせいで、夜中のリビングには何やら複数の悪霊が来ていた。
堪忍袋の緒が切れたので、外守護達に「来た奴全部根絶やしにしてくれたら、週末寿司頼もう!!私の貯金から下ろす!」と宣言した。
寿司で釣ったことで、外守護達は多少やる気を出したようだった。
外守護達の頑張りもあって、その日の深夜は黒兎の足ダンもなく、とりあえず比較的穏やかに寝付くことができた。
コメント
1件
うわっ、これめっちゃ怖いやつやん……!冒頭から「実話」って書いてあるから余計にゾワゾワするわ。黒兎の足ダンで何度も起こされるのもリアルやけど、あの赤い鼻緒の下駄が娘の部屋から出てきたシーンが一番ヤバかった。「触った瞬間に断末魔と笑い声が聞こえる」って、もう完全に呪いのアイテムやん……。娘が「小さい頃からあった」って言うのも不気味すぎるし、記憶の曖昧さが逆に怖さ倍増やな。外守護達を寿司で釣るところはちょっと笑ったけど、全体通して日常が侵食される感じがよく出てて、続きが気になるわ!