テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
スタジオの空気は独特だった。白い背景。
眩しい照明。
静かに並ぶ機材。
紫陽花はその中央に立ちながら、自分の手が震えていることに気づいていた。
新人モデルとして初めての単独撮影。
何度も練習したはずなのに、いざ本番になると頭が真っ白になる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
穏やかな声が聞こえた。
カメラを肩に掛けた玲奈が近づいてくる。
今日の担当写真家だった。
「緊張してません」
反射的に答える。
玲奈は一瞬だけ黙り、
「嘘だね」
と言った。
図星だった。
紫陽花は思わず視線を逸らす。
玲奈は小さく笑う。
「初めて?」
「はい」
「なら仕方ないか」
そう言うと、玲奈はカメラを脇に置いた。
「じゃあ、おまじないしよう」
「おまじない?」
紫陽花は眉をひそめる。
玲奈は悪戯っぽく微笑んだ。
「効くんだよ、これ」
「絶対嘘ですよね」
「さあ?」
その曖昧な返事に呆れていると、玲奈が少しだけ距離を詰めてくる。
近い。
思わず身構える。
玲奈は首元の辺りを見つめながら、
「大丈夫」
とだけ言った。
その声は不思議なくらい落ち着いていた。
「失敗してもいい」
「……」
「上手くできなくてもいい」
玲奈は優しく笑う。
「私がちゃんと撮るから」
その言葉に、紫陽花の肩から少し力が抜けた。
初対面のはずなのに。
なぜか信じてみようと思えた。
撮影が始まる。
最初はぎこちなかった。
視線も定まらない。
ポーズも不自然だった。
それでも玲奈は急かさない。
「いいよ」
「そのまま」
「少しだけ顔を上げてみようか」
一つひとつ丁寧に導いてくれる。
気づけば紫陽花は、カメラを怖いと思わなくなっていた。
カシャ。
シャッターが鳴る。
玲奈がモニターを確認し、満足そうに頷いた。
「ほら」
画面を見せられる。
そこには知らない自分がいた。
少し不安そうで。
少し頼りなくて。
けれど確かに美しかった。
「これが……私?」
「うん」
玲奈は迷いなく答える。
「私には最初からこう見えてた」
胸が少しだけ熱くなった。
撮影が終わる頃には、夕日が窓を染めていた。
機材を片付ける玲奈が、小さな箱を差し出す。
「初撮影記念」
中には黒いチョーカーが入っていた。
シンプルなデザイン。
けれど不思議と目を引く。
「私に?」
「うん」
玲奈は笑う。
「似合うと思うから」
紫陽花は少し迷いながら首に着けた。
鏡の中の自分は、少しだけ自信を持って見えた。
「似合う?」
そう尋ねると、
玲奈はすぐに答えた。
「すごく」
その一言が嬉しくて。
紫陽花はそっとチョーカーに触れる。
また撮ってほしい。
またこの人に会いたい。
そんな気持ちが胸の奥で静かに芽生えていた。
コメント
1件
え〜!!めっちゃいい話やん…😭💕 モデル初心者の紫陽花ちゃんが、写真家の玲奈さんに「大丈夫」って何度も言ってもらえるの、心に沁みる…。おまじないとかチョーカーのエピソードも、距離感が絶妙でドキドキしたよ! まだ第1話なのに、このあとの2人の関係が気になりすぎる…🌸 また読みたい!お疲れ様、祈りと呪いさん✨
210