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(二)
蝉の鳴き声がする木が町に溢れ、 少しでも外に出ると、汗で身体が滲む。太陽が容赦なく私たちを焼きつける。入念に塗った日焼け止めが、吹き出し続ける汗で流れてしまったのではと不安になりながらも、その汗を拭う暇も、意欲もない。背筋を伸ばし、身体全面で風を受けられるように歩く。
誕生日の前日の七月十日の夜、明日になれば誰がメールをくれるだろうかと考えたことに嫌気が刺して、乱暴に携帯電話の電源を切った。
二十三時四十六分。冷蔵庫で冷やしておいた麦茶を透明のグラスに注ぎ、氷をいくつか放り入れた。テレビの電源を付け、チャンネルを変えた。冷たい麦茶が喉を通る度、身体が内側から冷やされる。カラカラと氷がグラスに当たる様子を無心で見つめながら、部屋を行き来する両親の背中を目で追ってしまっていることに気が付いた。胃の中から食べたものがぐんぐんと迫上がってくる。それが喉を超えたのが解った、と思ったら、急に口の中に流れ込んだので、唇に力を入れて必死に吐き出さないようにしながら、トイレに駆け込んだ。
胃酸の酸味と、溶けかけた食物が口を満たしているのが不快で、すぐに口を濯いだ。もう眠ってしまおうと思ったが、なかなか眠れなかった。携革電話の電源を付け、メールの新着通知を見た。数名から「誕生日おめでとう」件名でメールが届いていた。
なな!!! たんじょうびおめでとう!!
すてきな一年にしろよ!
またあそんでね♡
胡春らしい元気いっぱいのメールに、思わず笑ってしまう。送られていたメールに一通り返信し終えたところで、静かにパタンと、携帯電話と目を閉じた。
次の日登校すると、学校内で可愛いと評判の女の子達で結成されたグループが祝ってくれた。私もよく顔を出して、たまに昼食を共にするグループだった。お洒落な雑貨屋の紙袋から、薄い冊子を手渡された。開けてみて。と彼女らに言われ、開いてみる。
カラフルな紙とシールで彩られ、私が映る沢山の写真が貼ってあった。端から端まで手の込んだそれが、私は素直に嬉しかった。ありがとう。と改めて言い、彼女たちの顔を見ようと前を向くと、彼女も私と同じように笑っていた。一人がカメラを取りだし、私を中央に作ってくれたアルバムを広げて、写真を撮った。ふと、口の中で広がった酸味を思い出したが、飲み込んだ。
話したことのある子達がプレゼントしてくれたちょっとしたお菓子を、小野ちゃんと眺めていた。彼女には、ハローキテイのキーホルダーを貰った。鞄に付けたいけど汚れそうだから大事に取っておくと言うと、鞄につけるよう催促された。携帯電話で、写真を撮った。小野ちゃんと私がピースサインをして、その真ん中にキテイちゃん。フォルダにあるその写真をしばらく見つめながら、幸せだなと思う。ちょうど蓮二からメールが来て、今日は屋上に来るのかと聞かれた。行くと答えて、二人に誕生日だと伝えたら、なんて言ってくれるだろうと楽しみにしていた。