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宿泊する部屋にやってきたアリエッタは、暴れ疲れたのと安心した事もあり、水着から着替える前に眠ってしまった。

こうなってしまうと、ミューゼ達のやるべき事は決まっている。


「ミューゼ、しっかり抱いておくのよ。私が脱がせるのよ」

「あ、じゃあわたくしがパンツ履かせる役~」

「普段のアリエッタだったら、絶対に恥ずかしがって逃げるし」

「ふふっ、貴重な瞬間よね。アリエッタの肌はすべすべフニフニだから、ずっと触っていても飽きないわ♪」


保護者達はアリエッタが寝ている事を良い事に、その透き通るような全身をたっぷりと堪能するのだった。

起きていれば確実に辱めとなる状態のアリエッタはというと、精神世界で転がっていた。


『アリエッタ、どうしたの?』

『……なんでもない』


女の子として転生する元凶となった女神ははおやをジト目で睨みつけ、すぐに目を逸らす。起きている間は大人しかったが、やはり機嫌が悪いようだ。


『ほらほら、おやつよ~』


何度かアリエッタの機嫌を直そうとエルツァーレマイアが声をかけるが、それを全部無視して夢の中でもふて寝するアリエッタであった。


『うぅ…これはまさか、噂に聞く親離れってやつなのかしら……』


ただの自業自得である。




「む……」

「あ、起きた?」

「おはよ……」


昼寝?を終えたアリエッタが目覚めた時は、赤い太陽は沈みかけ、空が暗くなりかけていた。

身を起こそうとするが、身動きがとれない。


「う?」

「んふふー。おはよう、アリエッタちゃん♪」


ミューゼと向かい合っていると、背後から声がかかった。そのままゆっくりと転がされ、反対に向かされた。


「うぷ?」(なにこれ柔らかい……)

「よしよし、怖かったねー。良い子だねー」

(てりあ?)


柔らかいものに視界を阻まれ、頭の方向からネフテリアの声が聞こえた。顔を上げると目の前に思った通りの顔がある。つまり……


「あわわわわ……」(これヤバいやつ! あの柔らかいやつ!)


現状に気づいたアリエッタは、抜け出そうともがき始めた。しかしそんな事は保護者達が許さない。

背後からミューゼの手足が伸び、動かそうとした体をそっと拘束しただきしめた

前方のネフテリア、後方のミューゼ。2人のお姉さんによって包まれてしまえば、幼い少女が動く事など不可能なのである。

この状況は、元男性という事を意識しなおしたばかりのアリエッタにとって、罪悪感を呼び覚ます拷問でしかないのだった。


「もう怖いのはいないからねー」

「たっぷり撫でてあげるね」

「はにゃぁ~……♪」


そしてその罪悪感は、2人に優しく頭を撫でられ、あっさりと溶けて消えた。


「いくらなんでもナデナデに弱すぎだし。可愛いけど大丈夫だし?」

「大丈夫なのよ。誰にも渡さないのよ」


パフィの黒い笑みに、クリムは呆れるしか無いのだった。




寝起きでたっぷり可愛がられたアリエッタは、テンションが下がっていた事などすっかり忘れ、ミューゼと手を繋いで部屋を出た。

外はかなり暗くなり、浜辺には人が残っていない。


「誰もいないのよ」

「なるほど、これがヨークスフィルンの夜かぁ」

「…の直前よ。本番はもう少ししてから」


5人の中でヨークスフィルンの事を知っているのはネフテリアのみ。ミューゼ達は話だけは聞いたことがあるが、実際に来るのは初めてなので、その光景を見るのを楽しみにしていた。


「食事が終わったら、展望室に行きましょ。他の客も集まってるでしょうし、きっとアリエッタちゃん驚くわよ~」

「?」


アリエッタには当然その情報は伝わっていない。見た時にどう反応するのか、ネフテリアは楽しみにしていた。

戻っていたピアーニャ達と合流し、食事となる。地位の高い人物が多い為、賓客用の個室に通され、アリエッタも安心して食事をする事が出来た。ラスィーテ出身の料理長まで挨拶にやってくるが、王族が2人もいるので当然と言えば当然の出来事である。


「パフィやクリムから見てここの料理はどう?」

「家庭料理とは全然違うのが面白いのよ」

「そういえばコース料理って作った事なかったし。今度やってみるし」


今回の旅行ですっかり打ち解け始めたミューゼ達。距離を縮めるには自分から接近しなければとリリから教わったネフテリアは、とりあえず呼び捨てから始める事にした。

そして浜辺と部屋でたくさん話をした結果、パフィとクリムからは「テリア」と呼ばれるまでに進展していた。しかし、ミューゼは相変わらず「テリア様」である。流石に小さい頃から王族という存在を知っているファナリア出身のミューゼにとっては、身分の壁は高かったようだ。


「ふぅ」(満腹~)

「あ、食べ終わったのね。もうちょっと待っててね~」

「総長もあまり無理せず残してもいいのですよ?」

「そうはいかん。たくさんたべねばシンチョウがのびんだろう」

「ソウデスネー」


ちなみにアリエッタとピアーニャはくっついて食べている。もちろんネフテリア達の気遣いいぢわるである。


「ぴあーにゃ……?」

「むぐっ、な…なんだ?」


コテンと首を傾げながら、食べ続けるピアーニャを気遣うアリエッタ。もちろんその目は真剣で、可愛い妹分を心配する姉の顔になっている。


(いっぱい食べてるけど大丈夫かな?)

(……わちのカオに、たべカスでもついてるのか? いや、『あ~ん』したいとかオソロシイことをかんがえてるのか? わちはひとりでたべられるのだぞ?)


対するピアーニャは戦々恐々とした顔で警戒するのだった。警戒するあまり、周りにクスクス笑われている事に気付いていない。

こんな調子で1名以外楽しく食事を終えた一同は、展望室へとやってきた。海と浜辺を一望出来る宿の人気スペースで、他にも夜を待つ人が多数いる。


「外暗くなったねー」

「丁度いい時間ですっ! さぁあの席に!」


リリに促され、最も眺めの良い席につく。一番良い宿の一番良いプランなので、展望室での扱いも特別なのである。

もちろん注目度も高い。


「あの人達凄いね~……」

「美人ばかりじゃねぇか。しかも見た事無いような服着て」

「ってネフテリア王女じゃない!? まさか一緒に泊まってるなんて!」

「まじかっ!?」


おおよそ浜辺での評価と同じで、男性客達はコソコソとどの子が良いか話し合っている。一番人気は一部大きさへの評価が高いパフィのようだ。

服もアリエッタが描いてフラウリージェが作った新作を着ている為、かなり目立っている。こちらは女性が主に注目していて、最も話題になっているのはアリエッタが一番拘ったミューゼの服だったりする。

注目されている事で、ミューゼとクリムは少し顔が引きつっている。見られ慣れているネフテリアとリリは動じる事は無い。パフィも浜辺で見られまくったお陰か、さらりと視線を無視している。


「みゅーぜ?」(今から何かするのかな?)

「アリエッタにはテーブルが少し高いかな?」

「じゃあ今回はわたくしが抱っこしてあげる。ミューゼは景色を堪能してね」

「……? てりあ?」


ネフテリアの膝に乗せられたアリエッタは不思議そうにするが、窓の方を指差され、なんだかよく分からないまま外の景色を眺める事にした。

外は赤い太陽が完全に沈み、すっかり暗くなっていた。


「それじゃピアーニャちゃんは私の膝ね」

「いやだ」

「ふふっ、こうしてると、私達家族みたいですねー」

「そ、そうですね……」

「はなせ」


リリがピアーニャとロンデルを使って家族ごっこを始めているが、周りはスルー。むしろ、早くくっついて落ち着いて欲しいと思っている。

そして少し時間が経ち、ついにその時が訪れた。


「始まったわね」

「うわぁ、凄い……」


突然海が輝き、その輝きの粒が空中へと昇っていく。


「ここからはヨークスフィルンの夜の姿よ」

「おぉ~……」


ネフテリアの呟きに反応した…ように見えたのはアリエッタ。見た事も無い光景に声が出たのだ。

ミューゼ達は初めて見る光景を見逃すまいと、黙って見入っている。ネフテリアがアリエッタを預かったのは大正解のようである。

徐々に輝きの粒が大きくなり、ある程度の高さまで昇ると停止した。そして他の粒とぶつかり、一気に大きさを増すと、今度は逆に海に向かって降りていく。粒とぶつからなくても、徐々に大きくなってゆっくりと降りていく。


「あの粒はなんだし?」

「蒼晶花の種と呼ばれている光よ。あれが海に落ちると、花が咲くわ」

「花?」


ネフテリアの解説の意味が分からず、とりあえず落ちていく粒を目で追いかけた。


「ほらアリエッタちゃん、あれよ」

「?」(粒が落ちていく…)


落ちる粒は大きくなっているので、よく見える。周囲の昇っている粒を取り込みながら、さらに大きな青白い粒となって、海面へと落ちたその時だった。


「うひゃっ!?」

「わぁ……」


海面に巨大な氷の花が咲いた。

1つが咲けば、同じように落ちていた他の粒も海面に触れて、沢山の氷の花が咲き乱れる。


「あれが蒼晶花と呼ばれる氷の花よ。何かに触れるとあんな風に花みたいに氷が広がるの」

「凄い……」

「わー!」(なんか本当に異世界に来たって感じ! 雲の世界も凄かったけど、感動するー!)

「おっとっと…アリエッタちゃんったら珍しく興奮してるわね~」


粒が海に触れれば氷が咲き、その氷に粒が触れれば花は大きくなっていく。やがて巨大な氷の柱とも言える程のモノが海を覆い、青く妖しく輝き始めた。

そこはもう、昼の明るく暑い世界とは全く違う、氷に閉ざされた極寒の世界。その危険な美しさは、展望室にいる全員を魅了していた。

人の住む宿や家が無事なのは、ファナリアを含む多数のリージョンの技術によるもので、建物の中にいれば寒さを感じる事はなく、絶対に凍る事も無いのである。もちろん夜は外出不可能。もし外に取り残されれば、命の保証は一切無い。

ヨークスフィルンとは、猛暑と極寒の2つの顔を持った、少し変わったリージョンなのだ。


「ほら、空に太陽出てるよ」

「へぇ~…あれも太陽なんだ~」


暗くなった空には、青く輝く太陽が昇っていた。




──ヨークスフィルン──


青い空! 蒼い海!

ようこそ! ここは数あるリージョンの中でも有数の観光地!

開放的な砂浜で、服なんて脱ぎ捨てて楽しんじゃおう!

ただし時間は守ってねっ!

もしも帰るのが遅くなってしまったら、凍ってしまってさぁ大変!

昼の『赤』は暑さの時間、綺麗なビーチで楽しいバカンス。

夜の『青』は寒さの時間、キラキラ煌めく氷を眺めて優雅なひととき。

2つの顔を持つ不思議なリゾート、あなたはどちらの時間がお好き?

からふるシーカーズ

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