テラーノベル
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「…がはっ……!」
鈍い音が響き、視界が鮮血に染まった。
ミチルが放った黒い棘。
九条さんの胸を貫くはずだったその一撃を、割り込んだ美波がその身で受け止めていた。
「……美波…っ、!なんで……!」
私は叫ぼうとしたが、喉から出たのは掠れた悲鳴だけだった。
美波は血に染まった口元を歪め、弱々しく、けれど確かに私を見て微笑んだ。
「…10年前、あんたの声を奪ったのは私よ。……だから、最後に…」
美波の体から力が抜け、そのまま崩れ落ちる。
10年間、加害者という呪縛とパンドラの操り人形でしかなかった彼女が
最期に見せたのは「女王」の傲慢さではなく、一人の少女としての意地だった。
『……あはは! ゴミがゴミを庇って、何になるの?』
ミチルが狂ったように笑う。
彼女の周囲の黒い液体が、さらに巨大な波となって温室を飲み込もうと膨れ上がる。
絶望の出力が最大に達し、日本中の都市から光が消え、暗闇が広がっていく。
「……栞さん…逃げろ……君だけでも……!」
九条さんが美波の体を抱きかかえながら、私に叫ぶ。
だが、私の足は一歩も引かなかった。
喉の奥が、今までにないほど熱い。
それは母から託された旋律が、美波の流した血と共鳴し
私の命そのものを燃料にして燃え上がっている証拠だった。
(……いいよ、ミチルさん。絶望があなたの力なら、私のこの「痛み」は、あなたを終わらせるための光にする)
私は蓮の手を九条さんの方へと押しやり、ミチルの元へ歩み出した。
一歩進むたびに、喉の火傷が真っ赤な光を放つ。
『……来るな! 来るんじゃないわよ!パパは言ったわ、お前は私を救うための「生贄」だって!』
ミチルの顔が、恐怖で幼く歪む。
彼女は黒い棘を次々と放つが
私の周囲に広がる「静寂の波形」がそれらを紙屑のように弾き飛ばしていく。
私はミチルの目の前に立ち、彼女の冷たい胸元にある端子に、自分の指を重ねた。
「……ミチルさん。…パパは間違っていたよ」
私は、自分の全ての細胞を音に変える覚悟で、口を開いた。
これが最後。
二度と、誰の名前も呼べなくなってもいい。
「——さよなら……」
私の喉から、真紅の光が溢れ出した。
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深冬芽以