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──翌月の朝早くに、彼の車でお父様のお墓参りに向かった。
空はよく晴れ渡っていて、朝の澄んだ空気が開けた車の窓から心地よく吹き抜けていた。
「……花を買いに寄っても、いいですか?」
途中で車を止めて花屋に寄る。
大輪のカサブランカを選び、黒と白のリボンを結んだお弔い用の花束にしてもらい、彼が胸に抱えると、
黒のシックなスーツ姿に純白の百合の花がよく似合って、ブーケを誂てくれたスタッフさんも唖然とする程に麗しかった。
「綺麗……」
思わず呟くと、
「百合の花がですか?」
彼に不思議そうに言われて、お店の方と顔を見合わせてくすっと笑ってしまった。
──海を臨む丘陵に立つ墓標の前で、
「……父は、喜んでくれるはずです……」
白い百合の花束を供えて、彼が口にする。
「私のことを、お父様が気に入ってくれたらいいんですけど……」
心もとなく返すと、手がスッと握られて、
「……もし父がいたら、きっとあなたを気に入って、『いい人だね…』と笑いかけてくれるんじゃないかと……」
代わりに、彼が笑いかけて、
その笑顔に、お父様の優しげな笑みが浮かんで、重なるようにも感じられた……。
刻まれたお父様の名前をじっと見つめて、
「本当は父が生きていた時に、あなたのことを伝えたかったですね…」
彼が呟く。握られている手にぎゅっと強く力が加わって、
「……先生、泣いていて…?」
もしかして涙を流しているのではないかと、気にかかって顔を覗き込むと、
「……泣いてはいないですから」
私の頭に、温かな手の平がふわりと乗せられた。
「私は、あなたが共にいてくれるのなら、もう泣くことなどは……」
彼がそこまで言いかけて、
「違いますね…」
と、首をゆっくりと左右に振ると、私の両肩をつかんで向き直った。
「……あなたがいてくれるから、泣くことがないのではなく……」
真正面から私を見つめて、
「……そばにいてあなたを守るために、泣いてなどいられないのだと」
そう、ひたむきで一途な眼差しで告げた。
「……嬉しいです」
自分の頬を涙がつたったのがわかって俯くと、彼の指先がその跡を拭って、
「……もう私は、君を泣かせるようなことなどはないと、父の前で誓うので……」
温かく柔らかな面差しで、ふっと微笑んだ──。