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羊と亀のお遊戯会
515
#名探偵
空蝉 桜
136
おきつね
101
106 ◇楽しみな未来に向けて
伸之が今しがた、帰って行った。
子供たちが自分たちの離婚のことをどんなふうに思っていたのか、
ずっと気に掛かっていた。
当初元夫への恨み辛みがなかったといえば嘘になる。
けれどその暗く傷ついた気持ちは、小説を書くことに向けたことで、
失くしたとまでは言わないが、抜いていったという感じだろうか。
自分自身の気持ちと向き合い戦うだけでいっぱいいっぱいだったのだが、
決めていたことがひとつだけ明確にあった。
それは元夫や義両親に対する悪口を娘や息子たちには言わないでいること。
正直にいうと、何度も負けそうになり口から出そうになったことがある。
けれど小説を書いて山下さんからコミカライズの話があったり、おまけに
映画化という話まであり、大きなサプライズに随分と助けられたような気が
する。
今日の茜や淳平の言動を見ていて、自分の誓いを守れて
良かったなと心から思えた。
もしかすると今日元夫に会ったのが私たちにとって
最後になるかもしれない。
最後の晩餐じゃないけれど、父親と娘たちが穏やかに
親子の会話ができたことは幸いだと思う。
そして今日伸之が尋ねてきたことは大きな意味があったように思えた。
これで本当に一区切りついたのだと思った。
さぁ、これから私たち家族は幸せに生きるのだ、というように
百子は胸の奥から生きることに対し漲るものを強く感じた。
「茜、淳平、お疲れ様。そしてありがとう」
「「お母さん……」」
「茜、今付き合ってる徹さんとは結婚までいきそう?」
「うん、私、彼と万が一駄目になったら一生結婚しないと思うもん」
「お姉すっかり徹さんに気持ち持っていかれてるね」
「そうだよー。学生時代に巡り会えてラッキーだったと思うわ」
「なんでよ? そこは別に就職してからでもいいんじゃね」
「うんそうだね、悪くはないと思うけど学生時代にしか見られない
彼の本質みたいなものとかあると思うんだ。
もし就職してからの出会いだと今の彼の姿は見られなかったかも
しれないじゃない? 繕った姿で出会うみたいな?
上手く言えないけど、私は今の彼を好きになったから
よけいそう思っちゃうのよ。
社会人の彼と出会うとして、もしかすると交際してたかどうか。
彼が別の女性を好きになる可能性もあるしね」
「ようは、今ものすごぉ~く、愛があるのなって話?」
「そだよー」
「「ごちそうさっま」」
107 ◇winwin
「お母さんの今の質問って何か意味があってのこと?」
「あるあるぅ~。茜に言っておきたいことがあるのよ」
「なんでしょう」
「茜が結婚して子供も生まれた頃って私も山下さんとこの家で
暮らしてると思うのね。
その時にね、もしも子育てや家事に疲れたりすることがあったら、
私と山下さんとで子守してあげるわ」
「あ、ありがとう。
今からそう言ってもらえて安心というかうれしい申し出だけど、
山下さんもっていうのは……」
「うん、ちゃんと意味があるのよ。
乳児、幼児の子育てしている時って旦那さんのことまで構ってられなくて、
そういう時に旦那の浮気って世間ではよくあるみたいだし、そういうことや
あなた自身の息抜きも必要だと思うのね。
それで私たちは私たちで預かるのにちゃんと理由があるから
winwinなの。
だから遠慮せず預けていいわよ。
ほら、今更私は山下さんの子供を産んであげられないし。
でもね、あなたの子供で疑似お父さんの経験はさせてあげられるかなと
思って。それとおじいちゃんの役もね。
私ね、孫には私と山下さんのことをママ、パパって呼ばせるつもり」
-
少し前には山下のことは『司おじちゃん』と呼ばそうなんて考えていた
百子だが疑似父親役を経験してもらえるかもしれないと思うようになって
から、呼ばせ方などにも変化が生まれた。-
「お母さんって発想が面白いよね。そんでもってそういう提案って
みんながハッピーになれる内容で、すてきー!」
「お盆とかの夏休みに帰ってきた淳平にもしっかり叔父さんとして
子守させましょう。みんなで可愛がるわ。
あなたもあなたの旦那さんも息抜き出来ていいじゃない?
でも旦那さんにも父親であることをちゃんと自覚してもらわなきゃいけないし、
お休み丸々赤ちゃんがいないなんて張り合いがなくなるでしょうから、その辺は
ちゃんと旦那さんの意見を聞きながらじゃないとね。
三人の生活も大事にしないといけないから」
「うん。そうだよね。
お母さん、子育てをみんなでしようって提案してくれてありがとう。
一人で子育てしてノイローゼになる人もいるって聞くから、心配も
あったけれどなんか大船に乗ったような気分。
産まれてくるのがほんとに楽しみだわ」
「お姉なんかその言い方だともうお腹にいるような発言になるぜ」
「いないわよー、もう淳平ったらぁ~、何言っちゃってるのぉ~」
「「「はははっ」」」
辛い時悲しい時片寄せ合って暮らしてきた家族。
百子の幸せな未来が見えるような団欒がそこにはあった。
108 ◇百合子と早瀬
百合子は逃げるようにして息子を連れ早瀬の家を後にした。
そして伸之から請求さた500万円の慰謝料のため、
仕事を探し必死に働いた。
百合子は事実婚だった元夫の石田伸之から勝手に多額の金を
持ち出しており、窃盗の罪は事実婚妻ということで微妙なラインであったが、
訴えられた以上、道義的にも返金しなければならず、伸之に対して
金の持ち出しと托卵の罪で500万円の慰謝料を請求された。
伸之からの接触でそれらのことを知った早瀬が全額支払うと言ってくれたが
百合子は半分は自分で払いますからと言い、早瀬の家から出た後、
立て替えしてくれた早瀬に毎月支払うことになった。
実家に住まわせてもらっているとはいえ、両親にもいうほどの余裕はなく
自分たちの生活費と慰謝料の返済のため、百合子は仕事を探し朝な夕な必死に
働いた。
百合子たち親子が出て行った後、早瀬の両親は翔麻のいない淋しさを
ことあるごとに早瀬に訴えた。
「誠、夏休みには絶対翔麻を遊びに来させてね。
ちゃんと百合子さんに伝えておいてよ」
春になると、まだ4月だというのに先の夏のことを言い出す母親に
早瀬は苦笑するしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
早瀬は疫病のせいもあり、昨年の夏に転職していた。
前の職場では交際している恋人がいて転職と共に結婚の話が出ていた。
早瀬はアラフォーなので結婚に関しては遅いくらいなのだが
焦りはなかった。
相手の音羽芽衣子は、28才と微妙な年齢だった。
なので彼女から結婚話が出た時もさほど驚きはしなかった。
そうだよなぁ~、ぼちぼちそういうのも考える時期にきたのか、という
具合に。
コメント
1件
第37話読み終えたよ〜!!😭💕 百子さん、元夫への恨みをちゃんと消化して、子供たちの前で悪口言わないって誓いを守り通したの、本当にすごいし尊すぎる…!!あの団欒のシーン、家族みんなで笑い合ってて涙出たわ。茜の結婚話やwin-winな子育てプランも、百子さんの優しさと強さが詰まっててあったかくなったよ。 百合子さんと早瀬の行方も気になるー!次回も楽しみにしてるね🌸✨