テラーノベル
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夕暮れ時の学校。
教室から賑やかな声が遠ざかり、
廊下が静けさに包まれ始めるその時――
僕は突然、後ろから腕を掴まれた。
先輩『ちょっと、元貴くん~、今いい?』
振り返る間もなく、別の先輩にも
反対側の腕を取られ、あれよあれよと
いう間に身体を引っ張られていく。
元貴『え…何、離してくださいっ…!』
抵抗するけど、先輩たちは全然手を
緩めてくれない。僕の声も廊下の奥に
吸い込まれていくだけだった。
先輩『大丈夫大丈夫、ちょっと付き合ってよ』
先輩『人気のない場所の方が落ち着くだろ?』
空き教室に無理やり押し込められ、
扉が閉められる。狭い教室の中に、
ぞっとするような静寂が落ちる。
山岡先輩――若井と同じサッカー部の性悪な先輩。若井も前まで嫌がらせを受けていた。――
がすぐ目の前に立ち、
後ろから腕を固定されて逃げられない。
先輩『最近さぁ、
若井と随分仲良しみたいじゃん〜
お前、あの先輩にだけデレデレしちゃってさ』
山岡先輩が僕の襟をぐいと掴み、
強引に顔を近づけてくる。
『やめてください』
そう言う間もなく、
僕の制服の襟が大きくはだけられ、
首筋を撫で回すように指が這う。
先輩『いいじゃん、ちょっとくらい〜笑
若井には内緒な?』
耳元に熱く息を吹きかけられ、
僕の身体は強張るしかない。
先輩『ほんと怯えてんな~、笑
そんな可愛い顔すんだ〜笑』
後ろの先輩がニヤニヤと揶揄いながら、
僕の髪をくしゃっと乱してくる。
両腕はしっかり抑えつけられて、
どこにも逃げられない。
甲高い笑い声と冷たい手の感触、
心臓が恐怖で早鐘を打つ。
元貴『っ、や…やめて…!やだ…!』
とうとう涙が滲む。
でも彼らはそれさえ面白がるように、
もっと意地悪なことをしてくる。
先輩『泣きそうじゃん、ウケる!笑
ほらもっと良い顔見せて〜?』
山岡先輩が、わざとゆっくり僕の唇に
自分の唇を押し当ててきた。
元貴『あ…やめて、やめて…!!』
身体をよじっても逃げられなくて、
張りつめていたものがぷつっと切れる。
怖さと悔しさで、
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
先輩『やべ、本当に泣いちゃったよ!笑』
先輩『マジで!?弱っ…可愛い〜!笑』
教室の中、先輩たちの笑い声が響く。
僕の涙を見て、
みんなお腹を抱えて笑い転げている。
先輩『情けね〜笑
若井とはイチャイチャできるくせに~』
先輩『庇ってくれる人いないとマジ弱!笑』
山岡先輩まで爆笑して、
僕の頬を片手で包んで顔を上げられる。
――助けて、若井……、
元貴『……やだ、やだ…!若井!若井、!』
声の限りに絞り出す、精一杯の救いの声。
涙と嗄れ声でぐしゃぐしゃになって、
それでも僕は必死に若井の名前を呼んだ。
次の瞬間、ドアが勢いよく開く大きな音がした。
滉斗『元貴!!何してんだお前ら…!』
そこに現れた若井の姿に、
僕の張りつめていた心が一気に
解れていくのが分かった。
若井は目を怒らせ、
一直線に僕のところまで駆け寄ると、
力強く僕の腕を引き寄せてくれる。
僕は涙まみれのまま、若井にしがみついた。
滉斗『元貴、大丈夫…?』
若井の声は本気で心配そうで、
そして怒りを含んでいた。
抱きしめられた腕のぬくもりに、
ぐちゃぐちゃだった心が、
少しずつ温かさで包まれていった。
先輩『泣いちゃってさぁ~、若井〜笑
こいつ全然根性無いな~笑』
滉斗『お前ら、調子乗んなよ…!』
若井の睨みを受けて、
さすがの先輩たちも、
罰が悪そうに目を逸らし始める。
『ごめん、やりすぎちゃったわ』
『めんどくせ~』
なんて言いながら、
ぞろぞろと教室を出ていった。
ようやく静かな空間に戻る。
僕の嗚咽だけが、しばらく教室に響いていた。
若井は僕をぎゅっと強く抱きしめて、耳元で
『大丈夫だからな、俺がついてる』と
何度も優しく囁いてくれた。
元貴『…若井、ごめん、僕…怖かった、』
滉斗『いいよ、元貴、
怖かったら泣いていいし、頼ってほしい、
全部、俺が受け止めるから、』
僕は、若井の手のひらの温もりを
頬で感じながら、気づけば涙も呼吸も、
だんだん落ち着いていった。
滉斗『これからは絶対離れない、
俺が守るから、』
その言葉を聞いて、
やっと心の底からほっとした。
僕は安心して小さく笑った。
――夕陽が差し込むその教室で、
ぼろぼろになった僕の心を、
若井が最後まで優しく抱きしめてくれた。
コメント
4件
若井来てくれて良かった~💦読みながら『若井!早く来てあげてよぉ~!!』って思いました(ノ_・、)
うん、もうね、最高しか言えないじゃないか!!!!!!!!