テラーノベル
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放課後のチャイムが鳴ると、教室は一気に帰宅モードに変わった。生徒会の仕事を終えた氷室と昇降口で合流し、俺たちは自然に並んで学校を出る。
夕方の風は頬を刺すように冷たく、冬の匂いを含んでいた。校門を抜けた瞬間、ふっと肩の力が抜けかけたが、その足は止まった。
歩道の先、街灯の下に健ちゃんが立っている。昨日と同じようにポケットに手を突っ込み、こちらを待っていたとしか思えない位置だった。
「やあ。今日も一緒なんだ」
口元に柔らかな笑みを浮かべながらも、瞳は冷たい光を帯びている。氷室が僅かに前へ出て、俺の視界を半分だけ覆った。背中越しに伝わる体温が、やけに近い。
「神崎……用は?」
「別に。ただ、少し話がしたくて」
神崎の視線が俺に移る。笑顔の形は変わらないのに、足元から冷えが這い上がってくるような感覚がした。
「ねぇ奏、この間のこと……考えてくれた?」
「考える必要なんてない」
氷室の声は低く抑えられているのに、刃のように鋭い。
「へえ。やっぱり、氷室は怖いくらい守るね」
健ちゃんが楽しそうに目を細める。
「でもさ、君が知ってる奏は、本当に全部か?」
その瞬間、空気が一段と重くなった。それだけで息が詰まりそうになる。俺が口を開きかけた時、氷室の手が俺の手を強く握った。その力に、言葉は喉の奥で凍りつく。
「……くだらない話だな」
吐き捨てるように言い、氷室は俺を促して歩き出す。靴音が夕暮れの歩道に乾いた音を刻む。背後から神崎の声が追いかけてきた。
「氷室、くだらないかどうかは奏が決めることだろ?」
その声が、風に乗って何度も耳の奥に反響する。街灯の光が遠ざかっても、胸の奥のざわめきは消えなかった。
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