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#コスプレ
#ドS
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「神代マネージャー、この修正案ですが……」
「やり直し。論理が飛躍しているわ。…明日までに、完璧なものを私のデスクに置いておいて」
「は、はい……!申し訳ありません!」
背後で若手社員が震え上がる気配を感じながら、私はカツカツとヒールの音を響かせて廊下を歩く。
神代怜、28歳。
不動産デベロッパーの営業マネージャー。
社内での二つ名は「氷の女王」。
仕事に一切の妥協を許さず、私情を挟まないそのスタイルは、部下たちから畏怖と敬意——
そして、ほんの少しの近寄りがたさを向けられている。
(……ふぅ。今のはちょっと言い方がキツかったかしら)
エレベーターの中、鏡に映る自分を見る。
タイトなスーツに、隙のないメイク。
眼鏡の奥の瞳は冷徹そのものに見えるだろう。
けれど、その裏側で心臓がバクバクといっているのは誰も知らない。
本当は、嫌われるのが怖くて、でも舐められないように必死なだけ。
そして何より、私の最大の悩みは——。
「お疲れ様です、神代マネージャー。相変わらず、厳しいですね~」
チリリ、と肌が粟立つような声。
振り返らなくてもわかる。私の天敵であり、生意気な部下。
真壁湊
「……真壁。あなたこそ、定時を過ぎてもフラフラしているなんて、余裕があるのね」
「余裕なんてありませんよ。ただ、あんまり眉間にシワ寄せてると、せっかくの美人が台無しですよって言いたかっただけで」
真壁は、涼しげな、それでいて全てを見透かすような瞳で私を見下ろした。
私より年下のくせに、仕事はそれなりにこなすし、何よりこの余裕綽々とした態度が鼻につく。
私のペースを乱すのは、いつもこの男だ。
「余計なお世話よ。……私は先に行くわ。失礼」
逃げるようにエレベーターを降り、駐車場へ急ぐ。
早く、早く帰らなきゃ。
この息苦しい「氷の女王」の鎧を脱ぎ捨てられる場所へ。
◆◇◆◇
一時間後──…
都内にある、セキュリティの厳重な私のマンション。
玄関の鍵を閉めた瞬間
私はヒールを脱ぎ捨て、ストッキングを脱ぎ捨てた。
「……あー、疲れた!疲れた疲れた!」
ベッドにダイブし、乱れた髪のまま深呼吸する。
ここからは、私だけの時間だ。
私はクローゼットの奥、隠し扉のようなスペースにある「聖域」を開いた。
そこには、パステルカラーのウィッグ
フリルが何重にも重なったドレス、そして少し過激なレザーのボンテージ衣装。
私のもう一つの顔——
SNSでフォロワー数万を誇るコスプレイヤー『レイア』の衣装たちが並んでいる。
「よし、今日は新キャラの撮影日」
眼鏡を外し、カラコンを入れ、派手なウィッグを被る。
プロ仕様のメイクで顔を作り替えれば
そこには冷徹な女上司の影など微塵もない、無垢で、あるいは扇情的な「女の子」が現れる。
私は自撮り用のライトをつけ、カメラに向かってポーズを決めた。
……本当は、こんな風に可愛がられたい。
誰かに甘やかされたい。
現実では絶対に言えない言葉を、ネットの海に放流する。
撮影したコスプレ写真を添付して投稿ボタンを押し、満足げにため息をつく。
この秘密があるから、私は明日も「氷の女王」を演じられる。
けれど、この時の私はまだ知らなかった。
明日、あの生意気な真壁の前で、私のこの「聖域」が跡形もなく崩れ去ることを。
そして、あんなに憎たらしかったはずの彼の腕の中に、自分から飛び込んでしまう夜が来るなんて——。