「……えっと……結葉。ひょっとしてタオルを用意してきてくれたのかな?」
でも、偉央はすぐに気を取り直したようにクスッと笑ってそう言ってくれて。
声を掛けられた結葉も、なるべく偉央の方を見ないよう気を付けながらコクコクとうなずくことが出来た。
「そっか。ありがとう。でも……羽織ったまま水に入ったら濡れちゃうからね。ここに掛けとこっか」
結葉が「あのっ、でもっ」と戸惑いの言葉を発するより早く、伸びてきた偉央の手で、結葉は羽織っていたタオルを剥ぎ取られてしまう。
偉央が、今まで彼が座っていたチェアにタオルを置くのを目の端にとらえながら、身体を隠すみたいにその場にしゃがみ込んだ結葉だ。
そんな結葉に、偉央は「結葉、すっごく似合ってる。僕にもっとよく見せて?」と手を差し伸べる。
その手を恐る恐る取りながらも、
「で、でもっ」
――恥ずかしくてたまらないの……。
そう小声で付け加える結葉の手を引いて立ち上がらせると、偉央は恥ずかしさに震える結葉の小さな身体を腕の中に閉じ込めた。
「プールに入ろうか? そうしたらきっと、恥ずかしくないよ?」
耳元で誘いかけるように偉央からそう問われた結葉は、確かに水中ならゆらゆらと水面が揺蕩って、自分の恥ずかしい水着姿も見えにくくなるかな、と思って。
こくりと小さくうなずいた。
「――きゃっ」
と、結葉のその反応を確認するや否や、偉央が結葉を横抱きに抱き上げる。
「い、偉央さんっ?」
不安定に揺らされた身体に驚いて、思わず偉央の体躯に触れてしまった結葉は、彼の逞しい二の腕の感触や、すぐそばの剥き出しの胸筋を強く意識させられて真っ赤になってしまう。
「じっ、自分で歩けます、のでっ」
間近の偉央の裸身を見ないよう視線を逸らせてしどろもどろに言い募ったら、「ねぇ結葉。キミは僕の前を歩けるの? 恥ずかしいってうずくまってたのに?」と聞かれて言葉に詰まる。
「い、偉央さんが目をつぶっていてくださるなら……」
ゴニョゴニョと言い訳するようにつぶやく結葉に、偉央がくすくす笑う。
「それはとっても非効率的だね」
そうこうしているうちにチャプッと水をかき分ける音がして。
「結葉、水に入るよ?」
と偉央から声がかかる。
日中の日差しで温められたプールの水は、思ったほど冷たくなくて……むしろ温かく感じられるぐらいだった。
「そんなに冷たくなくて良かったね」
偉央が結葉を抱き抱えたまま水に入っていくから、結葉はお尻や腰の辺りから徐々に浸かって濡れていく。
それが何だかすごく恥ずかしく思えて。
できれば末端――足先――から濡れたかったと考えてしまった結葉だ。
「あ、あの、偉央さん、私、立ちますっ」
ここまできたら、少しでも早く水の中に身体を沈めてしまいたい。
ソワソワと偉央の顔を見上げて言い募る結葉に、偉央がニコッと微笑んで「足、滑らせないように気をつけてね」とそっと足の方から水中に下ろしてくれる。
結葉が立つと、水は胸を半分隠すあたりまできて。
お風呂に浸かっている状態を思って、もう少し深さがあって、立っていても首下辺りまで水に隠れたら良かったのに、とか思ってしまった結葉だ。
「結葉、今ちょっと危ないことを考えているでしょう?」
水面を見つめて眉根を寄せてしまっていたらしい。
偉央がそう声を掛けてきて。
結葉は慌てて偉央に背中を向けて「きっ、気のせいですっ」と返す。
「あんまり深かったら波が立った時、結葉、水を飲んじゃうからね?」
結葉の言い訳をスルーして、クスッと笑われた結葉は、偉央に心の中を読まれている気がして恥ずかしくなった。
そんな結葉を、偉央が背後からギュッと抱き締めてきて。
結葉は突然のことにびっくりして足を滑らせてしまう。
偉央のせいでもあるのに、悪びれた風もなく転びそうになった結葉の腰に腕を回して支えると、
「気を付けてねって言ったのに」
偉央が結葉の耳元に吐息混じりの声を吹き込んでくる。
「んっ、偉央さっ……、それ」
くすぐったいですと抗議しようとしたら「わざとだよ?」って耳をクチュッと舐められた。
「や、っ、ダメッ」
途端、今まで感じたことのない感覚が舐められたところを中心に走って。
未知の刺激に怯えた結葉は身体をギュッと硬くした。
「結葉、髪、結んでくれてるから首が露わになっててすっごくそそられる」
今度は剥き出しの首をカプリと噛み付くように咥えられて、そのままヌルリと舌で撫でられる。
「や、偉央さっ、待っ……」
自分を抱きしめる偉央の下腹部が固く張り詰めているように感じられるのは、きっと気のせいではないはずだ。
結葉は偉央が今、どういう意図を持って自分の身体に触れているのかを察して真っ赤になる。
今日は新婚旅行初日で、入籍して初めての日だ。
夜には偉央とそういうことになるだろうというのは漠然と覚悟していた結葉だけれど、それは夜に、の話であって、今ではない。
ましてやプライベートプールとはいえ、ここは屋外――。
高い壁に囲まれているからきっと、どこからも見えはしないと分かっていても、見上げた空には太陽があって、真っ青な空に白い雲が浮かんでいるのも見える。
この部屋の敷地近くに植樹されているのだろう。
高木が葉を揺らす様も壁越しに切り取られた空に微かに見えて、「ここは紛れもなく外なのだ」と痛感させられてしまった結葉だ。
初体験が明るいお天道様の下。
それも外で、だなんて絶対に有り得ないし、そんなの恥ずかしすぎる。
結葉は涙目になって偉央の腕から抜け出そうと頑張ってみるのだけれど、偉央は結葉を逃がす気はないらしい。
腰に回された偉央の腕は思いのほかしっかりと結葉を捕まえているし、結葉の胸をゆるゆると撫でるように揉み始めたもう一方の手も、結葉の身じろぎをしっかりと封じている。
「い、おさっ、お願っ、」
せめてベッドで、と言おうとするのに、スルリと首筋で結んだホルターネックのリボンを、偉央が口で引っ張ってきたのに気が付いて、思わず声が途切れた。
まだ水に完全に浸かり切っていなかった首筋の布地は、シュルッと簡単に結び目を解いてしまう。
そのことに驚いた結葉が、抗議の声を上げるより早く胸をゆるゆると撫でていた偉央の手が、スルリと直に結葉の肌に触れてきた。
膨らみを下から持ち上げるようにやんわりと揉まれ、今までそんなところを他者の手に委ねたことなんてなかった結葉はただただその事態に驚いて――。
動揺しながら見下ろした先、水がチャプチャプ跳ねるなか、胸が剥き出しになってしまっているのが目に入った。
ふんわりと女性らしい丸みを帯びた双丘のみならず、その中心に恥ずかしそうにちょこんと乗った、色素の薄い色付きや、その先端までもが白日の下にさらされていて。
それが、偉央に揉まれるたび、フニフニと形を変えるのが、何だかすごくエッチで恥ずかしかった。
自分では全然そんな気なんてないのに、何故か胸の頂はぴんと張り詰めて、固くしこって。
それが、こう言うことに疎い結葉には信じられなくて、どうしようもなく羞恥心を煽ってくる。
「ねぇ結葉。キミのここは僕に触って欲しくて期待してる?」
そうして、結葉の身体を彼女の反応を見ながら責め立てている偉央が、その変化を見逃すはずがなかった。
耳元で揶揄うようにクスッと笑われて、結葉は恥ずかしくてどうにかなってしまいそう。
「そ、んな……ことっ――な」
ないです、と言い切る前に、カリッと引っ掻くように敏感な乳首に触れられた結葉は、言葉の途中でビクッと身体を跳ねさせて「あっ……ン」と喘いだ。
その、鼻にかかかったような甘ったるい声が自分から発せられたものだとは、にわかには信じられなかった結葉だ。
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