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「てかさ、真彩と湊、初体験しちゃったんだって!」
「まじかよ!俺もカワイー子さえいればすぐヤるんだけどなー。この学年ブスしかいねーし。」
「問題発言すぎて草。じゃあうちらも言うけど、男子もイケメンいないよ。」
「うるせーなー。もう可愛くなくてもいいから、一番おっぱいでかい子と済ませて来よっかな。」
「ヤバすぎ。まーおもろいからいいけど。」
……これは、朝の会中にする会話として、大丈夫なのだろうか。
いや、そもそも朝の会の間に喋るのも駄目なのに、大声でこの話題はアウトだろう。
などと、問題光景に慣れないようにする訓練として、心のなかで小さく突っ込む。
(先生も女性だし、聞こえていても注意しづらいんだろうな。)
ようやく会話が途切れたころ、先生が真剣な面持ちで口を開いた。
「皆さんに大切なお話があります。二組前に掲示されている集合写真、ありますよね。そのなかで、佐竹先生の顔が誰かに破られたようなんです。タブレットにアンケートが配布されているので、各自答えるようにしてください。」
佐竹先生は、二組の担任であり一年生の数学担当、卓球部の顧問でもある。
先生の顔が破られるというのは、僕達が思う以上の問題なんだろう。
担任の櫻井先生が、いつも以上に落ち着きがなかったのは、そのせいかもしれない。
「なんてことがあってさ。先生も大変だよね。」
家に帰ってそう母さんに話すと、なにか考えるような仕草を取った。
「……田島くんも、似たようなことあったって言ってたよね。」
「え?あ。」
思い出した。
一時期、名簿やプリントなど、あらゆるものから田島の名前を消すのが流行っていた。
学校で禁止されている修正ペンも、名前を消すために持ち込まれた。
『酷いよ、誰がやったんだよ。』
田島はそう言っていたが、口調は冗談交じりだった。
「この世から、少しずつ自分の存在が消えていく。それってすごく怖いことじゃない?もうこの世にお前はいらないって言われてるみたいでさ。」
真面目な顔でそう語る母さんに、考えすぎだよと横入りする。
「みんなそんな思いでやってないよ。もっと純粋な、単純なものでしょ。」
「じゃあ聞くけど、純粋ないじめって何?」
僕は答えが見つからず、答える代わりに押し黙った。
先生曰く、結局誰がやったのか分からないまま幕引きとなったらしい。
朝の会の後、破かれた掲示物はどんな状況なのか見ようとしたが、もう昨日の時点で廃棄されていたらしい。
ヒソヒソと噂話が交わされる中、一時間目の国語が始まった。
「そういえば、佐竹先生の話だけど。」
提出物の回収が済むと、先生はそう口を開いた。
「本当に、やった人には反省してほしいんだ。佐竹先生は宿泊学習や音楽祭の指揮も取ってくれてるんだよ。もし、明日から来られなくなったらどうなるか、分かる?」
皆はしん、と黙り込んでいた。
「今回のことは、それほど人を傷つけるってことを分かってほしい。」
僕は、昨日の母さんとの会話を思い出していた。
(もし、田島が明日から、学校に来なくなったら?)
一体誰のせいになるというのだろうか。
きっと皆、酷いことをしている自覚はあるのだろう。
ということは、責任の押し付け合いになる、といったところだろうか。
もしくは、自分のせいではないと思うのだろうか。
はたまた、自覚すらもなく、田島が勝手に休んでいるとでも思うのだろうか。
胸のあたりがむかむかしてきた。
(どうか、また僕のような子が出てきませんように。)