控室に通されると、空気が一気に変わった。
明るい照明、メイク用の鏡が並び、テーブルや衣装ラックが並べられた、簡素ながら清潔に整えられた空間。
「きゃー! 見て見て!
これテレビ局用のごっつい鏡やで!」
大きな姿見の前で、リコは完全にテンションが上がっている。
アイドル衣装のスカートをひらっと回し、ポーズを決める。
「どう? 寿司子。似合っとるやろ?」
寿司子も着替え、鏡に映る自分を見た。
リコと色違いの衣装。
ふわふわした生地、フリル、リボン、明るい色。
――違う。
私は、これを着るために来たんじゃない。
笑わせるために来たんだ。
「……派手ですね」
「そこ? もっと褒めてええとこあるやろ」
リコが笑いながら、寿司子のほうを見る。
「寿司子もさ、その衣装。
なんか……寿司っぽいなぁ!」
「……」
「白い地に赤で、マグロ感あるっちゅうか」
「……」
「せや、ネタにできそうやな!
『大将オススメ!本日のおまかせ衣装!』とか言うてな!あははっ!」
「……うるさい!」
無意識に声が出た。
思っていたより、大きな声だった。
「い、今、集中してるから!」
控室が、ぴたりと静まる。
リコが目を見開き、
猫田も一瞬、瞬きを忘れた。
「……!」
寿司子は、はっとして口を押さえた。
「す、すみません……今のは……」
言い訳を探す。
いつもの敬語に戻そうとする。
でも、言葉が続かない。
リコが、ゆっくり息を吐いた。
「……なんや」
そして、ふっと笑った。
「やっと、怒ってくれたやん」
「……え?」
「寿司子、ずっとさ。
相方やのに、どっか遠かった」
リコは、寿司子のほうをまっすぐ見る。
「敬語ばっかで、言葉選びも気ぃ遣って、壁作って。
今日、初めてちゃう?」
指で、自分の胸を指す。
「ここに、ちゃんと来たの」
寿司子の胸が、きゅっと縮む。
「……ごめんなさい」
「ちゃうちゃう」
リコは首を振った。
「ありがとう、や」
少し照れたように笑う。
「ウチ、やっと相方になれた気ぃする」
寿司子は、言葉を失った。
怒ったはずなのに、責められると思っていたのに。
胸の奥で、何かがほどける。
「堪忍な、ウチも緊張してて…喋りすぎやね」
「……ううん…ありがとね」
小さく、でもはっきりと答える。
そのとき、ドアがノックされた。
「イナリズシさん、リハーサル行きまーす」
猫田が立ち上がる。
「ほら、行くよ。今日は記念日ね」
二人は顔を見合わせる。
「……行こか、相方」
「……行こう」
廊下の先に、ステージが待っている。
まだ遠い。
でも、確かに同じ方向を見ている。
イナリズシは、並んで歩き出した。
――続く






